第144話 フィリスの原点(オリジン)

ゲームでエンディングを迎えたときの話です。





「ふーーー、さすがにこの量の書類は肩がこっちゃうよ……」

 


 魔法学園の自室にある大量の書類を前にフィリスは思わずため息をついていた。ハデス教徒を倒し、邪神の復活を阻止して世界を救った彼女たちだったが、それですべてが終わるわけではない。

 後処理こそが肝心なのだが……



「クレスは忙しそうだし、聖女様は異世界から来ているからかこっちの政治は何にもわからないしね」



 ともに戦った仲間のことを思い出して苦笑する。今頃クレスは救世の英雄として色々なところで慣れない公演をさせられているだろうし、聖女はゼウス教の象徴として何人もの人を治療しているだろう。

 そして、フィリスは……



「フィリス師匠。今ってお時間大丈夫でしょうか?」

「もう、今日の私はスカーレット教室の先生ではなく、貴族としての仕事で忙しいっていったのに……どうせ、また変な魔法を思いついたんでしょ」

「えへへ、すいません。でも、師匠が部屋にいるのってこういう時くらいしかないじゃないですか」



 ローブを身にまとった少女が舌をぺろっとかわいらしく出しながらそう言っているのを軽くあしらう。



「はいはい、じゃあ、あとで質問を書いた紙をちょうだい。返事は今日中にするからさ」



 そう、彼女はスカーレットの魔法学園の教室を引き継いでいた。そのうえ十二使徒として国の政治にもかかわっているのだから、地獄の用に忙しいのも無理はない。だけど、それでパンクをしないのは彼女が元々貴族として色々と学んでいたからだ。とある人間を補佐するためにいろいろと学んでいていたからだ。



「次は……邪教に支配されていた領地をどうするか……か。後継者がいないのはインクレイ領と、ハミルトン領か……」



 聞きなれた言葉に胸が痛くなるは気のせいではないだろう。ここは自分の故郷であり、自分がいろいろと学んだ場所でもあるのだ。



「お兄様……ロザリア……私はどうすればよかったのかな……もっと早く話にいけば二人を救えたのかな……」



 屋敷で炎に焼かれていったロザリアを思い出す。領民にリンチされて命を落としていた兄を思い出す。

 あの光景を彼女が一生わすれることはないだろう。世界を救っても家族を救えなかったことを忘れることはないだろう。

 フィリスの指に輝いているのはハミルトン家に伝わる魔力をあげる指輪だ。隠し通路と隠し財産の存在を知っていた彼女はクレスたちととも屋敷に侵入したときに手にいれたのだ。



「もしかしたらお兄様がこれを身に着ける未来もあったのかな……」



 かつての優しかったヴァイスのことを思い出して、胸がずきりと痛む。決別してしまったけれど、それでもやはりフィリスにとっては家族だったのだ。



「でも、私は決断したんだ。今さら後悔なんかできないよね」



 この国を救った人間から適切な人間を選んで次の領主に推薦するとフィリスは一瞬ハミルトン領の方を見つめたあとに指輪を外す。



「これは……ハミルトンの新しい領主にプレゼントしよう」



 その後彼女はこの国の救世主としても十二使徒としても偉大なる功績を残し歴史残すことになる。

 だけど、彼女がハミルトン領に再び足を踏み入れることは二度となかった。




 この作品の二巻が本日発売されました。

 三巻がでるかはこの売れ行きにかかっていますので、なにとぞよろしくお願いいたします。


 




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