第145話 メグの原点(オリジン)
こちらゲーム本編のハデス教徒ゼウス教の戦いが終わった後の話です。
ハデス教徒との戦争が終わり、ハミルトン領の市場にも活気が戻ってきていた。そんなか一人のメイド服の少女が歩いてくる。
「すいません、肉串を三本いただけますかー?」
「おお、メグちゃん。メイド長になって忙しいって聞いたけど大丈夫なのか?」
「ええ、もちろんです。私は優秀なメイドですからね、この程度のお仕事一瞬ですよ」
笑いながら力こぶしを作る少女の名前はメグ。ハデス教徒を打ち破ったゼウス軍の後方支援を担当していた人間である。
そんな彼女は故郷に戻り、新しい領主の元でメイド長をやっているのである。そんな彼女は店主がお肉を焼いているのを見ながら質問をする。
「新しい領主さまはどうですか? 変なことをやっていたら教えてくださいね、私が説教しますから」
「あはは、あの人はちゃんとやっているよ。まあ、ヴァイス様の時よりもずっと生活も楽になったし、街にも活気が出てるさ」
昔を思い出して一瞬暗い顔をする店主。彼の言うヴァイスが統治していた時のハミルトン領のことは彼女も覚えている。
重税や汚職などにあふれている地獄のような環境だったのだ。だからこそメグは王都にいるフィリスに助けを求めたのだから……
「でもさ、あの人も昔はああじゃなかったんだ。子供のころは美人なメイドを引き連れてよく俺たちの話を聞きに来てくれたんだよ。前領主様がしなないで、ちゃんと教育してくれる人がいれば、もしかしたら……」
「でも、ロザリアがいましたよ」
店主の声をメグが遮った。その表情はいつもの笑顔を絶やさないものとは違い悲しみに満ちていた。
「ロザリアは……あの子は本当にヴァイス様のことを想っていたんです。それで色々とアドバイスもしていたんですよ。なのに何にも聞かないでバルバロなんかのいうことばっかり聞いて……」
ぶつぶつと不満を言っていたメグだったが店主の気まずそうな顔にはっと気づくと再び笑顔を浮かべる。
「ごめんなさい。ちょっと愚痴ってしまいました。今のは忘れてくださいね」
「ああ、気にしないでくれって。いろいろあったもんな。ほら、いつものようにたれをおおめにつけといたよ」
「わーい、ありがとうございます」
「でも、三本は食べ過ぎじゃないか? 屋敷の料理が喰えなくなるぞ」
「もう、私がそんなに食いしん坊に見えますか!!いや、この前は五本食べてましたね……」
店主に苦笑されつつもメグはお店の外へと出る。そして、彼女は向かった先は墓地だった。今回の戦争では兵士だけでなく何人もの人が死んだ。
そんな戦死者を祀る墓地の前にきてメグは肉串をおそなえする。
「世界は変わりましたよ。あなたが生きていればどう思ったでしょうね? それとも、『あの人がいない世界には意味がないです』とかめんどくさい女ムーブして後を追っていましたか?」
その墓にはロザリアと刻まれていた。メグにとって彼女は同僚であり、大事な友人だったのだ。
「聞いてくださいよ、いつかやめるメイドランキング一位の私がいまやメイド長ですよ。信じられないですよね、次のメイド長はあなただと思っていたのに……」
記憶にある彼女はいつも真面目で積極的に仕事も見つけるような性格で上司からの受けもよかった。
そして、何よりも領主に対して絶対的な忠誠心を持っていたのだ。
「あなたの事だから天国に行けますって言ってもヴァイス様についていきそうですよね。だから……次はちゃーんとロザリアを幸せにしてあげてくださいね」
メグはロザリアの隣の名にも掘られていない墓石に肉串をおきながら話しかける。この名もなき墓こそがヴァイスの物である。
戦が落ち着いた時にこっそりとカイゼルと一緒に彼の遺体を運んだのだ。いまだヴァイスを憎んでいるものが多いため名前を掘ることはできなかった。せめてものとロザリアの隣に作ったのだ。
二人の関係は恋愛だったかはわからない。だけど、絆があったことは確かだったと思う。
「もっとヴァイス様と話し合えば未来は変わったでしょうか?」
メグはそんなことを思いながら肉串を食べる。すっかり冷めた肉串はいつもよりもちょっと悲しい味がした。
この作品の二巻が本日発売されました。
三巻がでるかはこの売れ行きにかかっていますので、なにとぞよろしくお願いいたします。
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