第146話 近づく決戦

「久しぶりだね、ヴァイスさん」

「ああ、まさかお前がやって来るとはな……いったいどうしたんだ?」



 パーティーを終えて、アイギスをエスコートしたことで無茶苦茶不機嫌なアステシアをなだめたり、最近悩んでいるロザリアをどう元気づけようとか迷っていながら屋敷で仕事をしていた俺だったが、緊急ということで手紙をもってきた意外な来客に驚きの声をもらす。



「フィリスは元気か、クレス」

「目標ができたからかな、一生懸命魔法の練習をしているよ。多分だけど前の人生よりも成長していると思う」



 金髪の少年……ゲームの本来の主人公のクレスはどこか嬉しそうに笑って答える。人生二回目の彼がそういうのだ。フィリスは順調なのだろう。

 だが……彼と俺はそこまで親しいわけではない。わざわざ世間話をしにこんなところまできたわけではないだろう。

 怪訝な顔をしているとこれは内密にしてほしいとまえをおきしてから彼は口を開く。


「ヴァイスさんが捕らえたカイザードだけど、生首になって発見されたよ……」

「は……?」

「護衛のゼウス十二使徒トッドさんと一緒にね……ご丁寧に『ハデス十二使徒に逆らうな』って張り紙付きで路上に放置されていたんだ」



 クレスが本当に悔しそうに顔を歪ませて言った。

 信じられない言葉に思わず俺は間の抜けた声をあげてしまった。カイザードは性格に難はあったもののその強さは本物だったはずだ。

 それにあいつの加護も強力で……いや、あの加護には致命的な弱点があった。アイギスやアステシアが影響を受けなかったように罪悪感を覚えない人間には通じないのだ。

 ならば、倫理観がおわっているハデス十二使徒には通じない可能性がたかい。



「だけど、トッドさんはただでは死ななかった。彼は最後に己の血を媒介にして敵のアジトまでの道を示してくれたんだ。そして、クラトス様はハデス十二使徒との決戦を決めたんだ」

「前の世界とはずいぶんと話の流れが変わっているな……」



 そもそもゲーム本編ではゼウス十二使徒はハデス十二使徒の暗躍によってそのほとんどが倒された状態で始まっていたからな……

 トッドとやらも本編ではすでに故人だった。



「うん、だけど、今がチャンスなのは間違いない。そこでヴァイスさんの力も貸してほしい。ハデス十二使徒の加護を全てではないにしろ知っている僕らが手を合わせれば今度こそ勝てるはずなんだ」



 もう、最終決戦か……参加すべきなのだろうが……ハミルトン領のこともまだ放置はできないし、元気のないロザリアも心配だ。

 それに、本編とは違いパンドラやエミレーリオは死んでいるし、人生二回目のクレスもいるのだ。何か変な奴がいない限り負けはしないと思う。

 クレスのお願いに俺は……


☆☆


 ここはとある森の奥地である。美しかった神霊の泉だったが、今は来訪者によって穢されていた。



「ああ、パンドラ様……死んでもなお美しいですね……あなたを愛しています」



 人形のように美しく着飾れた死体に一人の女性がうっとりとした表情で口づけをする。

 その死体は神霊の泉のおかげか一切の腐敗をしておらず、確かに美しい……だが、その生命力が尽きているのは目に見れてあきらかだった。

 その女性……ベアトリクスは少し寂しそうに死体の頭を愛おし気になでる。そんな二人の楽園に一人の乱入者が現れる。



「やあやあ、こんにちわ、僕は……」

「死ね!!」



 名乗りの途中で剣で切り付けられた人影だったが、なんらかの魔法でも使ったのはその体が花弁となって舞う。



「あははは、問答無用だねぇ……だけど、僕は……いや、僕の神様は君のようにちょっとぶっ飛んだ人間を求めているんだ」

「貴様、私とパンドラ様の聖域に何の用だ」

「まってまって、僕は戦いにきたんじゃない。話に来たんだ」



 再度剣を構えるベアトリクスにその人影は胡散臭い笑みを浮かべて降参とばかりに腕をあげる。



「君はさ、かなえたい願いはないかい? 例えばその子を君を愛するようにしたうえで生き返らせるとかさ……」

「そんなことができるはずが……」



 ベアトリクスが複雑な表情で否定する。それは彼女が何度も望んであきらめた世界だ。この世界に魔法はあるが死後何か月もたった人間を生き返らることはできないというのが常識である。

 だが、そんな彼女の言葉を目の前の男は否定する。



「できるよ。ハデスでも無理だけど、ゼウスでも無理だけど、僕の信仰する神ならばできる。例えば……本来病で死ぬはずの人間の運命をかえたり、異世界から来た人間の魂をこの世界の人間の魂に重ねたりね」

「いったい何を……」



 己以上に狂信的なその瞳で己の神の偉業を語る男にベアトリクスはなにもいえなくなる。なぜならば本能的に分かったからだ。

 この男は嘘をついていないと……少なくともこの男にとっては本当なのだと。



「……貴様は何者だ?」

「僕はナイアル。とある異神の使徒だよ」



 ベアトリクスが話を聞く覚悟を決めたのを見てナイアルはにやりと笑う。そうして二人は……

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