第109話 ハデス教徒の拠点

 翌日の昼に俺とロザリア、そして、アイギスは待ち合わせの場所に来ていた。いや、本当はロザリアと二人で来る予定だったのだが、朝早くに彼女が扉の前で仁王立ちをして、待ち伏せをしていたのだ。どうやら、クレスとの戦いに置いて行かれたのが、よっぽど悔しかったようだ。

 まあ、彼女ならば足手まといになることはないだろう。



「それにしても、ダークネスってば何を考えているのよ。ヴァイスをこんな危険なことに巻き込むなんて……」

「まあまあ、それだけ、俺を買ってくれてるってことだろ。相手は十二使徒だ。恩を売るのも悪くないしな」

「ふふふ、流石、ヴァイス様です。ですが……領主様であるヴァイス様に頼るなんてダークネス様って人望がないのでしょうか?」



 珍しくロザリアが毒を吐く。なんでかダークネスの評価は無茶苦茶低いようだ。いや、きっと昨晩何かを言おうとしたことを邪魔されたのを怒っているんだろうけど……

 でも、結局彼女は俺に何を言おうとしたのだろうか? 彼女が俺をヴァイスと認めてくれたことはわかるのだが……



「ねえ、あんたたち何かあったの? ちょっと変な感じがするけど」

「いや、それはなぁ……」

「その……ちょっと大事なお話をしただけですよ。ね、ヴァイス様」

「ふーん」



 焦る俺たちをじとーっと疑わしそうな目でアイギスが見つめてくる。流石に彼女には俺が異世界の住人であることを言うのは抵抗がある。ロザリアの時は彼女が薄々と勘づいていたのと、本来のヴァイスとの関係が深かったから伝えたのだ。

 かといって嘘をつけばバレるしなぁ……



「はっはっは、またせたな。ヴァイス!! おや、アイギスもいるのか?」

「あたりまえでしょう? 私がヴァイスを守るんだから!!」



 ナイスなタイミングでダークネスが乱入してきた。待ち合わせと一秒も狂いのないタイミングできたけど、昨日といいなんかこだわりでもあるんだろうか?

 そして、やってきたのは彼だけではなかった。



「昨日ぶりですね、ヴァイスさん」

「ああ、情報提供者っていうのはお前だったんだな、クレス」

「こいつ、何を仲間ズラしてるのよ!! 敵でしょう!!」

「アイギス落ち着けって!!」




 俺はクレスに敵意をむき出しにしているアイギスを宥めながら苦笑をしている彼を見つめる。確かに人生に二回目のこいつならば、王都の近くに潜んでいるハデス教徒のアジトの場所も知っているだろう。そして、バイオレット対策もしているに違いない。それはいい……問題はもう一人の人間だ。



「昨日は留守にしてて悪かったわね、ダークネスとクリスだけだと不安だったけど、ハデス教徒と何度も戦っているあなた達がいるなら安心ね」

「いえ、こちらこそ、急にお邪魔してすいませんでした。スカーレット様も一緒に戦うんですね」

「ええ……今回は私も知らんふりはできないのよ」



 そういう風に答える彼女は苦いものでも噛んだように険しい顔で敵のアジトを見つめていた。スカーレットとヴァイオレットが姉妹という事はわかっているが、どんな仲だったかはゲームではあまり語られない。

 なぜならヴァイオレットとクレス達があった時にはすでにスカーレットは死んでおり、それを聞いたヴァイオレットが彼女を侮辱するシーンしかないからだ。



「ふっ、時間もない。早く行くぞ!!」



 何かを考えている彼女を見つめていたダークネスの号令で俺たちは敵のアジトの洞窟へと向かうのだった。



 ハデス教徒のアジトは天然の洞窟を利用したものだ。薄暗く歩きにくいが、身を隠すのにはもってこいの場所だろう。



「二手に分かれているな……ふむ、剣を地面にさして倒れた方に進むか」

「いや、もうちょっと真面目にかんがえなさいよ……」



 あほなことを言っているダークネスにアイギスがつっこむ。十二使徒二人がいるからか、本来はそこそこ手強いはずのハデス教徒たちも雑魚扱いである。あっさりと倒しながら進んでいく俺たちだったが、二股に分かれている通路の前で立ち止まる。



「ああ、それなら……」

「ここは二手に分かれましょう。十二使徒であるダークネスさんと師匠をリーダーとして、僕がダークネスさんについていきます。だから、師匠のことはヴァイスさんたちにお任せしてもいいでしょうか?」

「ちょっと、なんで私が任されるのよ。私がヴァイスたちの面倒をみるんでしょう!!」



 俺が正解のルートを言おうとするとクレスが先手を打ってきた。彼が進む方にはヴァイオレットとその側近が待機しているはずだ。そして、スカーレットを任せるってことは……ヴァイオレットと戦わせまいとしようとしてるってことか?

 スカーレットが何かを騒いでいるが気にしないでおく。



「では、ダークネスさん。行きましょう。僕らの侵入には相手も気づいているはずです。さっさと倒してしまいましょう」

「ふむ、クレスはせっかちなのだな」



 クレスは俺にウィンクをすると正解のルートを進んで行ってしまう。残された俺たちはもう片方の道を進むことにする。確かこっちの先は敵の宝物庫なんだよなぁ……



「ねえ、ヴァイス。私ってもしかして威厳がないのかしら? なんか、クレスとフィリスも扱いが雑な気がするのよね……」

「え、それは……」

「そんなことはないですよ。フィリス様はスカーレット様を本当に尊敬していると思いますよ、ね、ヴァイス様」



 言いよどむ俺をロザリアがフォローしてくれる。そうして俺たちは進んでいく。だけど気づくべきだったのだ。すでに歴史はかわっていることに……もうすでに俺の知っているゲームの時とは違う展開がまっていることに……


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やっとスカーレットさんがまともに戦うぞ、今回拠点を壊さなかったのは、ヴァイオレットさんとお話をしたかったからもしれませんね。

まあ、まだわからないですが……

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