第43話 ゼウス十二使徒
「以上が今回の奴隷売買に関する報告だ。邪教は思った以上に幅を利かせているようだな。インクレイ領だけではないだろう……おそらく、国の中枢にも関係者がいるはずだ。私はそっちを探ってみるよ」
「ふぅん……思った通り厄介ね。それで、この現地の協力者っていうのは何者なのかしら」
王都の十二使徒しか入る事の許されない秘密の部屋に二つの人影があった。一人は赤色の髪の20歳くらいの美しい顔立ちの美女である。
その起伏の豊かな体はローブの上でもわかるくらいで、街中ですれ違えば百人中九十九人は振り返るであろう。
もう一人の人影は男である。ボロボロの布切れを身にまとった男……そう、ダークネスだ。魅力的な異性がいるというのに、彼は一切興味を示さず偶然会った協力者に関して楽しそうに語る。
「彼の名はヴァイス=ハミルトン。無能な悪徳領主と聞いていたが噂は当てにならんな。優れた行動力に鑑定スキルを駆使し私を動揺させた上に、王級魔法を使って見せたぞ」
「は? 王級魔法ですって? あれは百年に一人の天才って言われた私ですらようやく使えるのよ。ただの領主が使えるはずがないじゃないの」
「ならば彼は『煉獄の魔女』と呼ばれた貴公と対等の能力を持っているのかもしれないな、スカーレット」
「あんたね……十二使徒第八席の私を侮辱しているの?」
ダークネスの言葉に、スカーレットは怒気を織り交ぜた視線できっと睨みつける。平民なから魔法の腕前を買われて、十二使徒にまで上り詰めた彼女は自分の才能に絶対の自信を持っている。
それを侮辱されたのだ。当たり前だろう。彼女の様子にやらかしたとばかりにダークネスは頬をかく。
「すまない、君を馬鹿にする気はなかったんだ。ただ……やがて、彼が君と同じ領域に到達するかもしれないと言いたかったのだよ」
「ふぅん……あんたがそこまでいうなら一回くらいどんなものか見に行ってもいいかもしれないわね。才能がありそうだったらスカウトしましょう」
「残念ながら君が講師をやっている魔法学園には入学できないぞ。彼は領主だからな。本当に冒険者だったら是非とも私の部下に、スカウトしたかったのだが……」
先ほどまでの不機嫌が嘘のように目をキラキラとさせるスカーレットにダークネスは残念そうに肩をすくめる。
彼女は魔法の事となると夢中になってしまうのだ。止めなければ仕事をほっぽり出してでも、スカウトをしにいってしまうかもしれない。
「あら、そう……残念ね。何か手は無いかしらて……ん……まって? ハミルトン……領主? フィリスの兄じゃないの!!」
ハミルトンという名に、覚えがあったらしくスカーレットの目が再び輝く。そして、ダークネスもまた、フィリスという名に覚えがあった。というか最近彼女と飲みに行くたびによく自慢げに聞かされている名である。
「ああ、君が最近取ったという直弟子か。全属性の中級魔法を使いこなせるんだっけな」
「ええ、久々に教え甲斐のある子を見つけたのよ。それにしても、二人ともハミルトン家か……魔法の適性がある血筋なのかしらね」
どこか貴族へのあこがれを持って嘆息するスカーレットの言葉をダークネスはやんわりと否定する。
「それは違うぞ。血筋で多少は才能は決まるかもしれないが、ものにできるかどうかは本人の努力だ。それを一番知っているのは貴公だろう?」
「ええ……そうだったわね。ごめんなさい。でも……王級魔法を使える人間か……今度フィリスにどんな兄なのか聞いてみようかしら。いっそ課外事業という名目でハミルトン領にいくのもありね……ついでに十二使徒権限でさらうのもありね」
「いや、なしだろうよ……あまりやりすぎるなよ」
そうして、彼らは雑談は続く。本来十二使徒たちがただの地方領主であるヴァイスの事を知る事はなかったが、運命は変わりつつある。
そして……兄が王級魔法を使い、他人を救ったという話を聞いたフィリスもまた、ゲームとは異なる行動をするのであった。
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義妹ちゃん登場フラグですね。ヴァイス君の運命も変わってきました。
ちなみにスカーレットさんが神獣の所で話していた主人公達を庇って死ぬ師匠ですね。
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