第89話 ロザリアの戦い

嫌悪に満ちた表情の男たちがこちらへと向かってくる。それはまるで自分の身体にたかる虫を見つめ……処理するそんな目である。男の一人が武器を壁にたてかけて、衣類を脱ぎ始めるを確認してロザリアは目を逸らす。

 当たり前だが、恐怖のあまり視線を逸らした……などという事は無い。



「全くパンドラ様も、嫌な仕事を頼んでくるなぁ……」

「そういうなよ、これもハデス様のためになるんだからよ」



 そんな会話をしながら、男の一人がズボンのチャックに手をかけた時だった。縄で手首を縛られていたはずのロザリアが立ち上がり、近くにいた男の股間を蹴り上げる。

 


「ぐげ……」



 何かがつぶれる音と共に、情けない悲鳴を上げて倒れ気絶するハデス教徒。それとは対照的にロザリアはきりっとした態度で立ち上がり、もう一人のハデス教徒をにらみつける。

 その目はまるで氷のように冷たく、普段の……ヴァイスと一緒にいる彼女を知るものが見たら別人と間違えるほどである。



「まったく、あなたたちごときに触れさせるほど私は落ちぶれていませんよ」

「貴様、どうやって……」



 狼狽して震えた声で武器を構える男にロザリアは冷たい目をしたまま関節が外れてぶらりと垂れている左手首をみせる。

 ぎょっとした男に何とでもないことのように答える。

 


「関節を外しただけですよ。メイドのたしなみです」

「くそが、ふざけやがって!!」



 激しい痛みを感じているはずなのに、それを表情に一切出さないロザリアに恐怖を感じながらも、男は剣を構える。

 そんな彼を冷たい目で見つめたままロザリアが詠唱すると、彼女の右手の中に氷で作られた小さい槍が生み出された。



「あなたたちは二つのミスを犯しました。一つはおろかにもヴァイス様のものである私を汚そうとして武装を解いたこと……さすがの私もあの状況で、武装しているあなた方二人に、監視をされていたら、脱出するのに苦労したでしょう。流石ベアトリクスですね。戦力を判断する能力は変わってませんね」

「は、何を言っていやがる!! 我が加護を……」



 男が何かをその力を使おうと何かを言いかけたが、それが叶うことはなかった。ロザリアが手元にある槍を投擲すると、それは男の喉を貫いて、そのまま突き刺さり、壁にはりつけにする。



「そして、もう一つは、ヴァイス様と敵対した事です。パンドラについて聞きたかったのですが……あなたたちの加護はどんなものか読めないですからね……」



 ロザリアの脳裏にはいつぞやの神霊の泉で出会ったハデス教徒たちの事を思い出される。彼らは拘束されても加護を使って向かってきたのだ。一人ではイレギュラーに対応できない可能性がある。 

 あの時はヴァイスの指示と、ナイアルとアイギスの活躍がなければもう少し苦戦していたであろう。ベアトリスもいつ戻ってくるかわからないし、あまりここにいるのは得策ではない。一旦ヴァイスの所に戻るべきか……そう思って悩んでいる時だった。扉が開く。



「おい、お前ら、騒がしいぞ。それとあの女はヴァイスの女なのだろう? ならば私も楽しませ……」



 そこに顔を出したのは下卑た表情を浮かべたドノバンだった。彼はロザリア達に倒されているハデス教徒を見て、その表情が固まる。




「なるほど……あなたが黒幕でしたか……ちょうどいいです。色々と聞きたいことがあるんです」

「待て、貴様!! 私は正義のためにだな……ひっ!?」

「ヴァイス様の敵ならばどんな正義であろうが、私にとっては悪です」



 ドノバンが言い終わる前にロザリアがその首根っこをつかんで壁に押し付ける。苦しそうに顔を歪める彼を見ても、ロザリアの表情は変わらない。

 彼女にとってはヴァイスの敵がどうなろうがどうでもいいのだろう。



「待て……金ならあの男の倍払う……だから、助けて……」

「お金ならいりません。あなたが何を企んでいるかと、パンドラの居場所を教えてくだされば結構です」



 命乞いをするドノバンにロザリアは淡々と問う。そして、情報を得たら一刻でも早くヴァイスの元へと駆けつけるのだ。彼女の頭にあるのはヴァイスの事だけだった。





-------------------------------------------------------------------------


パンドラさんが余計な指示をしなければ……


そして、ロザリアはヴァイスの敵には塩対応ですね

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る