第88話 解釈違い

 上着を脱ぐとピュラーによってベットで押し倒されてしまった。対した力ではないと言うというのに抵抗できないのはなぜだろう。



「ヴァイス様……こわいんです。私のそばにいてください」



 甘えた声で耳元で囁かれ、俺の身体が熱くなる。彼女の香りも心地よく、肌着同士で抱きあっているからか、柔らかい感触と共に、トクントクンという心臓の鼓動すらも感じてしまう。

 前世でもヴァイスになっても女性経験のない俺でも、わかる。これって誘われているぅぅぅぅ!! 初めての事に俺がパニックになっているとさらにギューッと抱きしめられて上目遣いのピュラーが震える声で囁く。



「ヴァイス様……元奴隷の私じゃ……だめですか?」

「そんなことは……」



 俺の返事を聞いているのか、聞いていないのか、彼女は目を瞑り何かを待っているかのように唇を突き出した。ここまで言われてへたれるのは男じゃないだろう。

 俺も意を決して行動にうつそうとした時に違和感を思い出す。



 待て……何で、俺はロザリアの事もアステシアの事も一切頭に浮かばなかったんだ?



 俺とてばかじゃない。彼女たちに好意を持たれていることは薄々察している。だけど行動しなかったのは俺の心の中のカップリング問題が解決していないからだ。それなのに、俺はピュラーといるときに一切その事をあたまによぎらなかった。それに……



「ヴァイスがさ、無関係の女の子とこうなるのは解釈違いなんだよな……」



 ヴァイスはバルバロに誘われて酒もやった。堕落もした。だけど女には手を出さなかったのだ。それはつまり……あいつにとって想い人が……ロザリアがいたという事だろう。だったらここで俺がピュラーを抱くのは解釈違いになる。そして、そんな行動をする自分を俺は許すことが出来ない。



「ヴァイス様……どうされました?」



 再び誘うような囁き声と柔らかい感触が襲ってくる。あれ、今決意したばかりなのに、なんかむっちゃ変な気分になるんだけど……さすがにおかしくないか?

 違和感を覚えた俺は、こっそりとアステシアから上着にしまってあったアステシアから貰った薬を口にする。すると……さきほどまでの高揚が嘘のようにはれていく。

 そして、彼女に触れている俺はステータスを覗き見る。



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ピュラー


武力 20

魔力 20

技術 80


スキル


魅了LV4

(異性はおろか同性すらも魅了し、疑わしさを緩和させる)

庇護者

(自らを守りたいと思わせる。その力は潜在意識にまで干渉する)

男性特攻

(スキルの全てが異性に対してはさらに効果的になる)



ユニークスキル


サキュバスハーフLV3


サキュバスとしての魅了によって異性を惑わさせ、好意的に思わせる。



職業:ハデス教徒

通り名:少女

主への忠誠度

100

ハデス神への信仰度

10


 サキュバスの子として、見世物にされていたところをパンドラに救われてから、彼女に忠誠を誓った。じつはハデスには興味が無い。

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 そういうことか……ステータスを見た俺は全てを悟る。そして、最初にあった時からなぜ怪しんでいたのに、ステータスを確認するという発想が出てこなかったかも理解する。彼女を見た時にはもう俺は、魅了されてしまっていたのだろう。



「ピュラー……いや、『少女』……パンドラはどこにいる?」

「な……? ヴァイス様どうされたんですか? パンドラというのは一体……私何か失礼をしてしまいましたか?」



 そう言ってすがるように差し出す手を、俺は優しくつかんでそのまま押さえつける。一瞬パンドラの名前を読んだ時に声を上ずったのを見逃さない。

 やはり、少女がいるという事はパンドラもいるようだ。



「一体何を……ああ、そういうプレイがお好きなら私は……」

「ちげえよ!? 俺を変態みたいに言わないでくれる? まあいい、パンドラはアステシアの所だな。ホワイト!!」



 ピュラーを抑え付けたまま足で、ホワイトにかぶさられていた上着を取る。すると、ホワイトが元気にとびあがってこちらへとやってくるが……機嫌が悪い。



「きゅーーー……」

「いや、ごめんって……忘れていたわけじゃないんだよ……人を呼んできてくれ」



 放置されていて、ちょっと不満そうになくホワイトを宥めながらお願いをすると、器用に扉を開けて出て行った。



「そんな……あなたはサキュバスに対する耐性は無かったはず……なんで私の魅了が……」



 冷静な俺を見て、状況を把握したピュラーが信じられないとばかりにうめき声を上げる。どうやら、ヴァサーゴの屋敷でサキュバスと戦わせたのは俺にサキュバスの魅力が通じるかを試すためだったようだ。

 今回は本当に危なかった。俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった。童貞特攻みたいな手をつかいやがって……だけどさ……



「お前の敗因は俺の推しへの愛の深さを見誤ったことだよ……NTRもモブとのラブコメも解釈違いだ。二次創作でやってくれ」



 決まった……とちょっと得意げな笑みを浮かべると、ピュラーの表情がどんどん曇っていき……どこか必死な様子になっていく。



「ダメですよ……ヴァイス様に抱いていただかないと、私があのお方に失望されてしまう……お願いです。抱いてください。なんでもします。わたしはあのお方に見捨てられたら生きていけないんです!! お願いします。お願いします。お願いします」

「なっ……」



 今にも泣きだしそうな顔で懇願しながら暴れる彼女には、先ほどまでの魅惑的な雰囲気など一切残っていなかった。ただ、必死な少女の姿があった。



「悪いがそれはできないんだ……影よ……」



 そんな彼女に俺はどこか悲しいものを感じながら影の手で口をふさいで気絶させる。



「ヴァイス様ご無事ですか?」

「ああ、彼女を捕らえておいてくれ、ハデス教徒だ。サキュバスの血を引いているから、見張りは女性の兵士に担当させておいてくれ」



 ホワイトに呼ばれてやってきた部下にそう命じて、俺が当たりを見回すと、水晶が置いてあった。ピュラーがいつの間にか置いていったのだろうか。

 覗いてみると、そこにはアステシアと向かい合うようにしているハデス十二使徒のローブを身にまとった少女が見えた。

 このままエッチなことをしていたらアステシアにみられていたのか……



「くそが、NTRビデオレターかよ!! とりあえずはアステシアをたすけなきゃ……」



 中々帰ってこないロザリアも気になるが彼女ならばなんとかするだろう。それにパンドラはなぜかアステシアに固執をしていた。十二使徒を相手しているアステシアの方が危険度は高いだろう。



「教会にいくぞ、ホワイト」

「きゅーー」



 俺は急いで部屋を出てから、くだらない事を考える。アステシアから貰った薬を飲んでからその……下半身の疼きが止まったけどこれ永続効果じゃないよな……



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これを見られていたら色々とやばかっただろうなぁ……



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