第36話 ハデス十二使徒

「それで……相手が姿を自由に変えられるって言うのは本当なのか?」

「ああ、我らの調査の結果だ。奴の足取りはここらへんで見失ってしまったと報告があったからな。そして、顔がぐちゃぐちゃに刻まれた変死体が見つかったのだ。そして、その体型がここの神父と一致しているのだ」

「ですが、そんな強力な能力を持つ相手が本当にいるのでしょうか?」



 ロザリアは昔に国と何かあったのか、ダークネスを信用していないようだ。だけど、俺はその能力をもっている人物を知っていた。



「ハデス教徒……十二使徒第七位夢幻のエミレーリオか!!」

「ほう……その名を知っているとはな、貴公、やはり、ただものではないな。だが一つ訂正しよう、彼は第九位だよ」

「さすがはロイスです、博識です!!」



 ゲームとは違ってまだそこまで出世はしていなかったようだ。そして、ロザリア、邪教の使徒を知っているのは、もはや、博識というレベルではないと思うんだが……

 第六使徒のダークネスがいるのなら勝てるのではと思う人もいるかもしれないがそう単純なものではない。使徒の数字は貢献度であり、戦闘力ではないし、何よりもエミレーリオの能力はなんとも厄介なのだ。最悪全滅だってある。



「それで……君たちは何者なのだ? 少年は一見冒険者の様な恰好をしているが、それにしては所作の端々に貴族教育を受けた後があるし、そちらのプリースト風の少女は治癒魔法を使う様子はなく、ずいぶんと実戦的な戦い方をする上に、常に少年を立てようとしているではないか? 君たちもここの孤児院が怪しいと踏んだ同業者かな?」



 ダークネスの言葉に俺とロザリアは顔を見合わせる。こいつは敵ではないが正体を明かしてもいいものか……ゲームが始まる前に死んだこいつがどんな人間かはいまだにわからない。  

 だけど……なぜか俺はこいつを信じていいかなって思った。言動こそ怪しいが、この男はまだ誰も傷つけていないのだ。最初に俺達と戦った時もまともにやりやったら、お互いこんな風に喋ってはいられなかっただろう。

 俺の表情で考えていることがわかったのだろう、彼女が微笑む。



「ロザリア……」

「はい、私はロイスの判断に従いますよ」

「俺は隣の領土の領主ヴァイス=ハミルトンだ。そして、彼女は俺のメイド兼護衛のロザリアだよ。ここには一人の少女の保護をしにきたんだ」

「ふぅん、ハミルトンか……まさかこんな所でその名を聞くとはな……状況は理解した!! その年で上級魔法を使いこなす実力、少数で一人の少女を救いに来る胆力、そして、優秀な部下に恵まれている貴公に正式に援護を依頼する。私は借りは必ず返す人間だ。私を味方にして損はさせないぞ!!」



 彼は俺にまるで頼もしい仲間であるかのように微笑んだ。おいおい、マジかよ、十二使徒に認められるなんて……俺は胸が熱くなるのを感じた。

 そして、心の中で語り掛ける。ほらさ、やっぱりお前はすごいやつだったんだよ、ヴァイス……だから、これからもいっしょに頑張ろうな。



「もちろんだ。それと……教会には俺とロザリアが先に入るからダークネスさん……」

「ダークネスでいいぞ、協力者よ!! むろん敬語も不要だといわせてもらおうか!!」



 俺の言葉を遮って彼はニヤリと笑う。十二使徒相手にため口でいいのか……まあ、本人がいいっているんだからいいんだろう。アイギスの時にやらかしたら拗ねてたしな。


 

「ダークネスは身をひそめて俺達のピンチを助けてくれ。それがおそらくエミレーリオに対しては有効だ。多分、俺よりあんたの方が強い人間を知っているだろう」

「ふむ……なるほど、理解した!!」



 その言葉と共にダークネスの気配が一気に薄れる。隣にいたというのに一瞬で見失ってしまう。なにこれすごい。



「ヴァイス様、大丈夫です。ダークネスは近くにいらっしゃいますよ」

「ふはははははは、私のあまりの優秀過ぎるスキルにおどろかせてしまったようだな!!」



 顔が見えないのにどや顔が浮かんでくる。これさえなければなぁと思いつつ俺が教会の扉を開くとそこには驚く光景が広がっていた。

 まるで邪教の儀式のように縄で壁に磔にされているカタリナと、それを呆然とした表情で見ているアステシア……その後ろになぜか暗い目をしたキースがいた。

 いや、それだけじゃない……キースは胸元からナイフを取り出して、アステシアに斬りかかろうとしていたのだ。

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