第35話 アステシアの回想

 私がゼウス神の加護に目覚めたのは10歳の時だった。ある日夢の中でお告げを聞いたのだ。神様いわく、これからこの帝国に邪教が蔓延るので、それを阻止して欲しいと……そのための力を与えると……そして、それを証明するかのように私は神聖魔法が使えるようになっていた。

その事を村の教会の神父さんに伝え力を見せると、神のお導きだと驚いて王都に連絡をしてくれた。そして、私は王都に行くことになったのだった。

 両親は流行り病で他界しており、孤児で、村に面倒をみてもらっていた私にはちょうどよかった。



 そうして、私は特殊な能力を持っている女性のみが入れる学校へと入学した。私はあまり、興味はなかったけど、成績最優秀者は何と十二使徒の側近としてスカウトされることもあるらしい。

 そこでは色々な事があった。初めての同性の同世代の友人ができた。その中でも特別に仲が良かったのはいつも世話を焼いてくれる同室のアンジェラ姉さんだった。あまり人と話すのが得意ではない私をサポートしてくれる、ちょっとぶっきらぼうだけどとても優しい人だった。

 孤児の私にとって彼女は本当の姉の様で……家族ってこんな感じなのかな……などとも思ったりしたものだ。

 

 だけど、そんな幸せは長くは続かなかった。ある日私が街で老人に、道を聞かれたので教えようとした時だった。いきなり手を振りかざしたと思ったら、私は気を失ってしまったのだ。

 そして、それからだった。人々が私を見るだけで嫌悪することになったのだった。ゼウス神がくれた私の能力は中途半端で呪いの正体はわかったけれど、それを防ぐほどの力はなかったのである。

 親しかった人にいきなり避けられるのが悲しかった。見知らぬ人にいきなり怒鳴られるのがつらかった。お店で料理を頼んでも、舌打ちをされて、虫が入ったスープを出される事だってあった。

 学校をアンジェラ姉さんが先に卒業している事だけが救いだった。多分彼女にまで嫌われたらもう耐えることはできなかっただろう。私は心配してくれる彼女に事情を誤魔化しながら、会う事は避け続けた。その結果、手紙のやりとりはするけれど、会わないという歪な関係になってしまった。すごい寂しかったけど……会って嫌悪の視線を向けられるよりはずっとましだった。



 私は呪いのせいで学校にもいられなくなり、色々な教会を転々とした。そこでもひどい目にあった。泣き言を言ったらうるさいと怒鳴られた。辛そうな顔をしたら余計あたりが強くなった。だから何があっても感情を表に出さないようにした。元々あまり、感情を出すことが苦手だったから私にとっては難しい事ではなかった。

 死にたくなるたびに神様の声を思い出して、頑張って生きた。きっとこれは試練だ。邪教による呪いという試練を乗り越えた時にきっと救いがあるのだと自分に言い聞かせてきた。そうでも思わないと気が狂いそうだった。

 ああ、でも、大好きな動物にまで嫌われるのはつらかったな……





 私は昔の……辛い時の事を思い出していた。だけど、そんな日々もようやく終わるようだ。私は神獣を連れた彼の事を思いだして、胸が暖かくなるのを感じた。彼がきっと私の救世主なのだ。

 彼を疑ってひどい事をしてしまったが、苦笑しながらも許してくれた。流石神獣契約者である。器が多きい。それに神獣もとても可愛らしかった。長かった試練がこれで終わるのだと神様に感謝の祈りをする。



 コンコン



 久々の嬉しい出来事に胸が暖かくなっているとノックの音が響いた。ここに訪れる人間は彼以外いなかったというのにどうしたのだろうか?

 私が恐る恐る扉を開くとそこには半泣きのキースが立っていた。一体どうしたというのだろうか? そして彼は……



「アステシア……助けて、神父様が怪我をしてて……カタリナもどっか行っちゃたんだよ」



 今までの失礼な態度を謝ってほしいなんて思わなかった。そんなことは正直どうでも良かった。神獣をつれた彼に触れたからか、呪いが弱まったのだろうか? キースの目には私への嫌悪の感情があったけど、初めて私に助けを求めてくれたことが嬉しかったのだ。

 だって、こんな風に誰かに助けを求められるなんて久しぶりだったから……だから、本当に嬉しかったのだ。

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