第34話 ヴァイスVSダークネス

あのダークネスという男は言動こそふざけているが、実力は本物だ。ステータスこそ高いが実戦経験のないアステシアを連れて行くわけにはいかないだろう。それとあいつと対抗するにはホワイトの力が必要だ。ハデス戦での力が使えればきっとあいつだって……

 俺が部屋に戻るとそこには衝撃の光景が広がっていた。



「アステシア、ちょっと俺達は……」

「ああー、モフモフしててかわいいでちゅねーーー。すごい癒される……さすがは神獣様……癒しっぷりも神様クラスね。ああ、動物に触れるの何て何年振りかしら。うふふ、可愛すぎる」

「きゅーきゅー♪」



 そこには先ほどまでの無表情が嘘のように、ニヤニヤした笑みをしてホワイトをモフモフしているアステシアがいた。ホワイトもまんざらではないのか嬉しそうに撫でられている。ああ、そっか……動物もハデス教徒ではないから、呪いの対象だったのか……

 てかさ、ゲームでもアステシアのこんな笑顔見たことねえよ!!



「あ、ご飯とかたべまちゅかー? 神獣様は一体どんな物を……」

「……」



 俺が予想外の光景にフリーズしていると、ホワイトに餌でも上げようとしたのか、顔をあげたアステシアと目が合った。

 笑みが一瞬で消えて、スッといつもの無表情に戻る。



「恩人とはいえレディの部屋に入るの時はノック位して欲しいわね」

「ああ……悪かった。俺達はちょっと見回りをしてくるから、部屋で待っていてくれ。ホワイト、こっちに来い」

「わかったわ。気を付けてね」



 ホワイトが俺の肩に飛び乗ると、一瞬寂しそうな顔をするアステシア。てか、無茶苦茶動物好きなんだな……その事を知れただけでも異世界転生して良かったと思う。推しの解像度が上がったぜ。



「その……動物を可愛がってる時、自然な感じで良かったと思うぞ」

「なっ!! あ……うううーー!!」



 俺の言葉に顔を真っ赤にして悶えるアステシアに別れを告げて、俺は部屋の外で待っていたロザリアと合流をする。

 会話が聞こえていたのだろう、彼女も微笑ましい笑みを浮かべていた。






「クレイス神父は応援を呼びに行ったら襲われたんだよな? じゃあ、敵はここを見張っているってわけだな」

「そうですね。とりあえず、周囲を探索しましょう。どこにあの男がいるかわかりませんからね」

「探す必要はないさ、私はここにいるぞ」



 俺達が中庭に出て、外へと向かうとした瞬間だった。正面の入り口に堂々と立っている人影があった。見間違えるはずもない、ぼろきれのような黒い布を被ったダークネスがそこにいた。

 ロザリアが俺を庇うようにして、間に入って槍を構えると、ダークネスも双剣を抜きかけて……俺の方を見て、表情が固まった。



「悪いが貴公らの悪行は……待て、その肩にいるのは神獣ではないか!! 貴公らは邪教の使徒ではないのか?」

「は? 邪教はお前の方だろ!! ここの孤児たちをさらっているんじゃないのか?」

「ヴァイス様、油断されるための罠かもしれません、警戒を解かないでください」



 慌てているダークネスとは対照的に変わらない態度で武器を構えるロザリアと俺に、彼は敵意は無いと言うように両手を挙げた。とはいえ、魔法が使えるのだ。油断はできない。



「待て待て、この紋章を見てくれ。私の名はダークネス。王都から来た人間だ。ここの教会が、孤児たちを闇の奴隷市場におろしているという情報を得て調査に来たのだ。貴公らが邪教の使徒でないのならば我々が戦う必要はないだろう?」

「王家の紋章だと……」

「ヴァイス様、どうしましょうか? あれを偽造している可能性もありますが……」



 王家の紋章を胸元から差し出すダークネスだが、冒険者時代に苦い経験でもあるのか警戒を解かないロザリアが俺に判断をゆだねてくる。 

 こういうときこそ、俺の力が役に立つんだよな。



「大丈夫だ。俺に任せてくれ。ちょっと、その紋章をじっくりと見せてくれないか?」

「ああ、構わんぞ。そうか、貴公が鑑定スキルの持ち主だったんだな。だから私の名前がわかったのだろう。やるではないか!!」



 感心したようにうなづくダークネスに、自分で名乗ったんだろうがと心の中で突込みいれつつ、紋章を見るふりをして、軽く彼の手に触れる。

 すると例によってステータスがでてくる。



---------------------------------------------------------------------------------------------

ダークネス=アキレス


武力 90

魔力 85

技術 90


スキル


風魔法LV4

火魔法LV4

剣術LV4

隠ぺい術LV3



職業:ゼウス教十二使徒第六位


己への忠誠度


100


ユニークスキル


十二使徒の加護


ゼウス神に認められた十二人の強者にのみ与えられるスキル。ゼウスの加護のによってステータス上昇大。


異教徒特攻


異教徒によるバットステータスが通じない。異教徒に対して武力が10プラスされる。



バットステータス


厨二病


言動によって相手に無駄な不信感を与える。


二刀流


適性は無いのにカッコいいからと無駄に使っているため、剣を一本使う時よりも弱い。



備考


 ゼウス教の十二使徒の第六位のためかなり優秀で偉いのだが、謎の男というのがカッコいいからという理由で普段は正体を明かさない。

 

-------------------------------------------------------------------------------------


 はぁぁぁぁぁ!!!?? ゼウス教の十二使徒の一人なのかよ!! そう言えば、アステシアが闇落ちした時の事件で、十二使徒の一人が死んだっていうのが設定資料集に書いてあったな……まさか、この人なんだろうか?

 予想外の結果だったが、敵ではないという事はわかった。



「ロザリア……この人は本当にハデス教徒じゃない。味方だ。この人の正体は……」

「少年、ヒーローの正体を明かすのはマナー違反だぞ」



 俺が十二使徒であることを、説明しようとすると無駄にどや顔のダークネスに止められた。そんなんだからロザリアがあやし……んでないな。

 彼女は俺の言葉と共に武器を構えるのをやめた。



「わかりました。ロイスが味方というのならそうなんでしょうね」

「ほう、この子は君の事を本当に信頼しているだね。それとも私の強者としてのオーラのせいかな? いつもはあやしまれるんだが初めて納得してもらったよ。はっはっはー」



 いや、お前のその怪しい言動のせいだよ……と内心突っ込みながら、俺は質問をする。



「敵でないなら、なんでなぜクレイス神父を襲ったんだ?」

「うん? 私は貴公ら以外とは戦闘をしていないぞ。私はあくまで調査をしにきたのだ、極力戦闘は避けるさ。まあ、君達は厄介そうだから、今後の活動に支障がでると思いさっさと退場してもらおうと思ったんだが……」

「「は?」」



 ダークネスの言葉に俺とロザリアが思わず間の抜けた声を上げてしまった。だって、クレイス神父は何者かに襲われたって……何かムチャクチャ嫌な予感がしてきた。

 困惑している俺達をよそに、ダークネスは質問をしてくる。



「それよりも、貴公らの周りに様子が変わった人間はいないかな? 邪教徒には姿を自由に変えられる人物もいるのだよ。そいつが何者かに化けている可能性がある」



 その言葉と共にアステシアの言葉が俺の脳裏に浮かぶ。



『現に子供たちは変わらずだけど、神父様は少し優しくなってきたし……』



「ロザリア!! クレイス神父だ!! 敵は彼に化けている可能性がある。神父は今何をしている!?」

「それは……私の代わりに子供の様子を見てもらっています」

「私の存在に気づいて、最後に子供達を奴隷にするためにさらって逃げるつもりかもしれないな、急ごうではないか!!」



 俺達は急いで駆け出す。そして、ピンチなのは子供達だけではない。アステシアもだ。俺に対してあんなにも弱音を吐くくらい追い詰められているアステシア……彼女が闇落ちしたとされている状況に今は一致しすぎている。ここで何かがおこったのではないだろうか。

 せっかく笑顔を取り戻した彼女が苦しむのは絶対に見たくなかった。



---------------------------------------------------


ダークネスさん書いていて無茶苦茶楽しい……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る