第133話 アイギスの決意


 案内された食堂はまだ昼過ぎだというのになかなかの賑わいをみせていた。人々の会話は税がどうのとか、収穫だとかだが、時々『マリアベル』や『領主代行』などの言葉が聞こえてくる。口にした人の表情からそれはからなずしもプラスな内容だけではないのがわかる。



「なあ、アイギス……辛かったら耳をふさいでいていいからな」

「ありがと、でもね、お母さまは私とヴァイスに話をききなさいって言ったのよ。だから、これは必要なことなんだわ」



 強い意思のこもった瞳で、アイギスは首を横にふった。貴族として、自分の責任からは逃げないという覚悟が見える。

 「武力武力」と言っていた彼女とは出会って一年程度だが本当に成長したと思う。



「どうしたの、笑って? 私は変なこといっちゃったかしら?」

「いや、アイギスは立派になったなと思ったんだよ」

「そりゃあ、私だってもう子供じゃないもの。それに……大切な人を支えるためには勉強しなきゃって思ったのよ」



 先ほどまでの凛々しさはどこにいったやら、顔を真っ赤にしてこちらを見つめるアイギスの言っている意味を分からないほど俺だって鈍感ではない。

 そもそも俺はヴァイスの顔で、ヴァイスとして生きているのだ。それなりにはモテてもおかしくはないだろう。

 ちゃんと自分の気持ちをはっきりさせなきゃな……リラックスするためにも地面にすわっているホワイトを撫でると可愛らしく首をかしげて声をあげている。



「きゅーー?」

「うふふ、かわいいね、ほら注文した料理だよ。うさぎちゃんにはサービスのにんじんだ」



 客引きをしていたお姉さんが料理をもってくる、出来立てのため湯気のたっているフィッシュアンドチップスに、獣肉ののったパスタと、スープ、それにホワイト用に小皿にのせられたニンジンがちょこんとのせられている。

 こいつはうさぎじゃなくて神獣なんです。と指摘するのは無粋だろう。



「うまそうだな、ホワイトもそんなに急いで食べなくてもなくならないから!!」

「美味しそうね!! こういうところで食べる機会ないから楽しみだったの!! これとかどうやって食べるのかしら?」



 普段の言動があれだが、貴族令嬢であるアイギスからしたからこういった庶民のご飯は物珍しいのだろう。素手で食べるフィッシュアンドチップスの食べ方がわからないようだ。

 俺は最近はロザリアやアステシア、時々メグ、カイゼルと視察と称して一緒に街で飯を食べているので手慣れたものである。

 


「こうやって食べるんだよ」

「きゅーーきゅーー」


 

 フィッシュアンドチップスを素手でとってソースにつけると揚げたての魚のほくほくとした触感とソースのうまみが口の中に広がっていく。ホワイトも欲しがっているが、食べさせて大丈夫なんだろうか?



「食べ方はわかったか、じゃあ……」

「ヴァイス……その……あーん」



 アイギスが恥ずかしそうに顔をあけながら口をあけている。それはまるで俺にたべさせてもらっているようで……



「あの、アイギス……?」

「仲の良い男女はこういう風にたべさせあうってお母さまから聞いたけど、違うのかしら? そっちの人もやっているわよ」



 マリアベルさんはなんてことを教えているんだよ、そして、アイギスが指の先を見ていると手をつないでイチャイチャとしている男女が目に映る。

 こいつらはただのバカップルだな……



「ヴァイスは私とそういうことするの嫌だったかしら……むぐぐ」

「嫌なはずないだろう。ほら、あついから気をつけろよ」



 アイギスがしょぼんとした顔をするものだから、つい、彼女の口に突っ込んであげる。正直こういうことするのはあまり慣れていないのでこっぱずかしい。

 照れ隠しに力を入れすぎたかと心配していると、アイギスは幸せそうに笑った。



「なんだか不思議な味だけど……それ以上に幸せになるわね。胸がポカポカするもの。ヴァイスにもやってあげるわ」

「え……ああ……」



 その笑顔があまりに可愛すぎて、一瞬見惚れてしまい、俺は何も考えずに口を開くとフィッシュアンドチップスが入ってきて……喉につきささる。



「ごほごほ……水を…くれ……」



 やっぱりアイギスだわ、武力がやべえ!!



「ごめんなさい!! 始めてだったから力の加減がわからなかったのよ」

「あんたら何をやっているのよ……」



  喉にダメージをおった俺が騒いでいると、店員のお姉さんが一人の男をつれてやってきた。



「その人は?」

「あんたは領主代行がやったことについて聞きたいんでしょう? この人は前の領主の館で武術の指南役として働いていたのよ。たいていのことは知っていると思うわよ」

「それが正義になるというのならば俺はすべてを語ろう。だから、今晩の飯はおごってくれ」



 男は最近聞いたフレーズと情けないことをいいながら俺たちの前にやってくるのだった



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アイギスのヒロインポイントがあがっていく。


アマゾンさんなどで書影があがっています。見てくださるとうれしいです。


女の子みんなかわいい……

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