第132話
今日泊まる屋敷から少し離れたところに馬車をとめてもらい、平民が着るような質素な服に着替えた俺たちは街を歩くことにする。
これまで乗っていた馬車にてを振ろうとした時だった。馬車の屋根から何か小さいものが落下してくるのが視界に入った。
これはまさか……
「ヴァイス気を付け……」
「いや、大丈夫だ!! こいつめー、忍び込んでいたのか!!」
「きゅーー!!」
俺は胸元に飛び乗ってきて首をぺろぺろとなめているホワイトを思いっきり可愛がってやる。最近俺が悩んでいたのでアステシアの元からこっそりやってきてくれたのだろう。
本当に可愛い奴である。
「あ……う……」
「ああ、大丈夫だぞ、ほーらホワイト、アイギスだ」
「きゅー?」
そういえばアイギスは小動物が苦手だったなと思いながらホワイトを抱きかかえて、彼女の方へと向ける。普段は強気な彼女がテンパっているのが可愛らしくてつい意地悪をしてしまったのだが、予想外の反応をする。
「この子噛んだりしないわよね?」
可愛らしく鳴いているホワイトにアイギスが恐る恐ると言った様子で手を差し出して頭を撫でたのだ。するとホワイトは気持ちよさそうに泣き声を上げる。
「きゅーー♪」
「アイギス……ホワイトが苦手だったんじゃないのか?」
「だって……この子はヴァイスの大切な仲間なんでしょう? だったら、私も好きになりたいなって思ったのよ。それで、お父様にウサギと遊ぶ時間をつくってもらったりしていたの」
「なんでそこまで……」
「それはその……私は初めてあった時にあなたに失礼なことをしちゃったでしょう? だから、今の私はヴァイスのことととっても仲良くなりたいって考えていることをちゃんとわかってもらいたいなって思ったのよ」
照れくさそうに笑うアイギスを見て、胸が熱くなる。彼女は俺のためにわざわざ苦手なの小動物を克服してくれたのだ。
しかも、俺のために変わろうとしてくれたなんて……思えば彼女は積極的に俺の力になろうとしていてくれていたが最初の出会いのことをずっと引きずっていたのかもしれない。
「アイギス……心配するなよ、俺たちはもうとっくに仲良しだろう」
「えへへ、ヴァイスにこうされるのってなんか胸がぽかぽかするわね」
アイギスの頭をなでてやると彼女は幸せそうに笑う。その顔からはもう、『鮮血の悪役令嬢』などと呼ばれていた面影はなかった。
人は変われるし、変わっていくんだな……
そんなことを改めて実感している時だった。
「そこのお二人さん、観光かい? よかったらうちでご飯でも食べてなさいよ。うちのフィッシュアンドチップスは美味しいわよ」
三十代くらいの女性である。目の前にある酒場兼食堂の店員なのだろう。ちょうど小腹もすいていたし、ちょうどいいか……
「ああ、ごはんのついでにここの観光名所や名物とかを教えてもらうと助かる。俺たちは今日来たばかりでな……」
「ふーん、お二人さんは何か訳ありみたいね。そっちのお嬢さんは肌の張りが綺麗だし、身に着けているアクセサリーは高価なものだもの。おおかた、駆け落ちか、護衛とのお忍びの旅ってところかしら?」
女性が耳元でささやくと何やら意味ありげな笑みを浮かべた。すげえな、アイギス……変装しても貴族だとわかるのか……だけど、俺も貴族なんだけどな……
「まあ、想像に任せるよ。それよりも街が騒がしいようだが何かあったのか?」
「ああ、それはね……ちょっとお偉いさんがきたせいで、一部の人間が荒れているのさ……あとではなしてあげるわよ」
マリアベルさんの訪問は予想以上の影響を与えているようだ。そして、俺たちは食堂へと入っていく。領主代行が来ただけでなんでこんなに騒がしくなっているかわからないが、きっとマリアベルさんが俺に伝えたいことと関係があるのだろう。
また、宣伝ですが、電撃の新文芸様のホームページにて、書影が発表されました!
みてくださると嬉しいです。
みんな可愛いです。
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