第137話 責任の取り方

 今日は月に一度のハミルトン領での会議である。俺はあのあとマリアベルさんとアイギスと共に作成した資料を皆に配っていた。



「それでは、かつての失策や、重税に関しての補填はおおむねこれで問題はないだろうか?」

「はい、確かに予算もあまり圧迫はされませんし、制度的にも運用しやすく目立った問題はありません。ですが、そこまでする必要はあるのでしょうか? ヴァイス様も当時は領主として不慣れでした。多少の失敗は仕方ないのでは? 他の領地ではこのようなことはしませんよ」



 書類を読み込んでいた文官が眉をひそめて声をあげる。彼の言うことはもっともだ。だけど、俺はマリアベルさんの案内で見た街でのことを思いだす。

 貴族にとっては失敗してしまったで済ませることだが、領民にとっては生活が大きく変わってしまった人間もいるだろう。俺はそれを無視したくはないと思うのだ。



「そうだな……もしかしたら、これは無駄なことかもしれない。だけど、俺は自分の失敗をみてみぬふりをしたくはないんだ。それに彼ら民衆からしたら俺の状況は関係ない。だから、もう二度とこのようなことをしない戒めのためにも補填する制度をつくっておきたいんだ」



 このような補填を前例にしておけば今後は俺だけなく、他の人間も責任の重さを認識するだろう。これがマリアベルさんとの話し合いの結果でまとまったものだった。

 これを機に周辺の貴族たちにももっと己の決断の責任を知ってもらおうということらしい。そうすれば、ヴァサーゴのような人間が現れる可能性も減っていくだろう。



「……わかりました。我らでも検討いたします」

「ああ、ありがとう」



 文官が渋い顔をしつつも書類を受け取った。まあ、彼らとて、いきなり領主がこんなことを言い出したのだ。いろいろと検討をするのだろう。次はもっとつつかれるだろうなぁとちょっと憂鬱になりながらも会議は終わる。

 そして、休憩がてら俺は自室で体を伸ばしているとノックの音が響いた。



「空いているぞ」

「ヴァイス様、会議お疲れ様です。紅茶と甘いものをお持ちいたしました」

「おお、ちょうどほしかったんだよ」

「うふふ、そうだと思っていました。今淹れますね」



 扉を開けたロザリアが紅茶の入ったポットと、クッキーののせられた皿がのったカートを持ってきてくれる。

 頭を使いすぎたせいか甘いものが欲しいタイミングだったのでありがたい。まさに至れり尽くせりである。



「聞きましたよ。かつての補填ですか……良い考えだとは思います。ですが、それはあなただけの責任ではありません。あまり重く考えない方がよいのでは?」



 ロザリアは紅茶を淹れながらもこちらを気遣う視線を向けてくれている。彼女は俺が転生者だということを知っているからな……だけど、それに関しての答えはもうとっくに出ているのだ。



「ありがとう。だけどさ……ヴァイスから魔法の才能や、領地、それにロザリアやカイゼルとか良いものばかりもらって、悪い部分は俺じゃないって切り捨てるのは違うと思うんだよ」

「……もう、ヴァイス様はまじめすぎます。ですが……そんなあなたのことは嫌いじゃありませんよ」



 俺の言葉にロザリアは微笑んでくれる。そして、なぜか、座っている俺の背後へと回った。



「どうしたんだ?」

「その……メグから聞いたのですが、疲れたかたにはマッサージが良いと聞いたので……今日の会議でお疲れになったでしょう?」

「ん……ああ…うお!?」



 こちらが何かを言う前にロザリアが優しく肩をもみほぐしてくれる。すげえ、リアルメイドリフレである。

 絶妙な加減に俺は思わず声を漏らす。



「随分と上手だな。誰かにやったことがあるのか?」

「はい、メグに練習台になってもらいました。万が一でもヴァイス様に不快な思いをさせるわけにはいきませんから」



 にっこりとほほ笑むロザリアだったが、いつぞやメグが肩をおさえて半泣きだったのを思い出す。あれってもしかして……



「気持ちよいでしょうか?」

「ああ……すごいいいよ……そこ……やばいかも……」



 俺が快楽のあまり気の抜けた声をあげたときだった。ガタンとノックもなしにドアが乱暴に開かれる。



「何をハレンチなことをしているの!! ロザリア!! 協定を忘れたとは……」



 やってきたのはなぜか顔を真っ赤にしているアステシアだった。



「アステシアさん……何を勘違いしているのですか……」

「な……だって、ヴァイスの変な声が聞こえたんですもの。仕方ないじゃない」

「いや、協定ってなんなんだよ。あと、アステシアはなにと勘違いしたんだ?」



 俺の質問には答えずになぜかロザリアとアステシアは顔を真っ赤にして逸らした。マジで協定ってなんなんだろう?



「それより、これを見なさい。さっき届いたアイギスのパーティーの参加者リストよ」

「ああ、今回は結構規模がおおき……は?」



 ずらーと並んでいるリストに書いてある名前に俺は思わず間の抜けた声をあげてしまった。



 カイザード



 確かにそこにはその文字があったのだ。




カクヨムコンテストように新作をあげました。

読んでくださるとうれしいです。


『破滅フラグしかないラスボス令嬢(最推し)の義兄に転生したので、『影の守護者』として見守ることにしました〜ただし、その正体がバレていることは、俺だけが知らない』


推しキャラを守る転生ものとなっております。


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