第138話 ブラッディ邸

「なんでカイザードはブラッディ家のパーティーに来るんだ?」

「どうやら別の貴族の推薦のようですね……派閥の関係もありラインハルト様も無下にはできなかったようです」

「きな臭いわね。どうせハデスのやつらが関わっているんじゃないかしら?」

「きゅーきゅーー!!」



 ブラッディ家のパーティーに向かう中、ロザリアと膝の上にホワイトをのせたアステシアの会話を聞きながらその推測はどうなのだろうかとおもう。

 そもそもがカイザードはゲームではアイギスがに首をねじ切られるだけのチョイ役である。

 


「また、未知の敵か……」



 パンドラとの戦いを思い出して、俺が小さくため息をついていると、暖かいものが手を包んでくれる。ロザリアだ。彼女はこちらを見つめ優し気に微笑んでくれている。



「ヴァイス様ならなにがあっても大丈夫ですよ。それに私たちもいますから」

「ありがとう。ロザリア……うお?」

「私もあなたの力になるつもりなんだけど……」



 ロザリアの手を握り返すとなぜか空いている方の手をアステシアにつかまれた。ちょっとすねている感じがなんともかわいらしい。

 


「ああ、ありがとう。二人が……いや、ホワイトもいれてみんながいればきっと大丈夫だ」



 そして、俺たちはちょうどブラッディ家についた。珍しくアイギスの姿はなく、意味深にほほ笑んでいるマリアベルさんと憂鬱そうなラインハルトさんが出迎えてくるのがみえた。





「やあやあ、来てくれてありがとう。ヴァイス君」

「いえいえ、こちらこそご招待ありがとうございます。でも、なんで今日はこんなに早い時間なんです?」



 パーティーは夜からだというのになぜか昼から呼ばれたことを聞くとなぜかラインハルトさんはあいまいな笑みを浮かべるだけだった。

 そして、そのまま奥の部屋へと案内される。



「これは……?」

「今日のアイギスのエスコートを君に頼んでいるだろう。だからそのお礼にちょっとしたプレゼントしようと思ってね」



 ずらりと並んでいるのは質の良い正装の用の服である。ヴァイスになってこういう服を見る機会が増えたからか多少は価値が分かるようになったのだが、これは一着一着で俺の持っているパーティー用のものすべてをあわせたものよい高価だとわかってしまう。

 高名な職人が手掛けたであろうボタンがついていたり、最新のデザインの礼服などが並んでいるのを見るだけで圧巻だ。



「あの子の誕生日ということで新しいドレスを奮発したんだ。それでね、妻がいうんだよ。隣に立っているパートナーも同じくらいのものを着た方がいんじゃないかって……だからこの中で気に入ったものをもらってくれないか? 君の好きな服をうちのお抱えの使用人がサイズをあわせるからあんしんしたまえ」

「いいんですか……? だって、これはかなり高価なんじゃ……」

「構わないさ。アイギスもそっちの方が喜ぶだろう。最初は私がエスコートしようっていったんだよ。でもね、あの子はヴァイス君がいいっていうんだ。ああ、わかってる。いつか子供は親離れをするもんなんだって……」



 虚空を見つめながらぶつぶつと語りだしたラインハルトさんに何と答えればいいかわからなくなる。そんな状況で使用人さんが声をかけてきた。



「ヴァイス様、採寸いたしますので、こちらにどうぞ」

「え? でも、ラインハルトさんが……」

「放っておいていいと奥様から言われてますので」

「あ、そうですか……」



 そんな会話をしながらも何着か試着して、一番しっくりくるものを着させてもらう。よほど高価な生地なのか、とても軽く肌触りが良い。

 そして、何よりも……



「やっぱりヴァイスはイケメンだなぁ」



 礼服を身にまとって決め顔をする推しについついにやけてしまう。ゲームでいったら『かっこよさが10上がった!!」とかテキストが出てきそうだ。

 そして、五分ほど鏡の前でポーズを取ってアイギスたちとのまちあわせの部屋へ向かい扉をあけると、いきなり視界が白いもふもふに支配される。



「きゅーきゅーー」

「おちつけ、ホワイト。この服高いから……マジできをつけて……」

 


 慎重に、優しく、ホワイトを顔からはがすと、そこには反射する日光と相まって女神のような少女がたたずんでいた。赤い髪の毛はくしでサラサラと流れるように美しく、彼女の特徴的な赤毛とは対照的な水色のドレスがコントラストとなりその少女の魅力を引き出している。

 そして、香水の甘い匂いがただよう中、こちらを上目づかいで見つめているアイギスはまるで深窓の令嬢のようだった。



 いや、令嬢なんだけどな……でも、なんかいつもとは全然違う。



「ヴァイス……今日のエスコートを頼むわね」

「ああ、任せてくれ。とっても似合ってるよ。アイギス」



 スラスラと誉め言葉が出てくるのは事前にロザリアと練習したからだ。今日は以前のアイギスの誕生日とは違い彼女のエスコート役だ。

 ただの参加者だった前とは違い俺自体も見られるのだ。最近いろいろと良い意味でも目立っているしここがヴァイスとしての社交の場での評価をきめるだろう。だから、うかつなことができないと思ったのだが……


 やべえ……想像以上に可愛らしい……


「ありがとう……ヴァイスも似合ってるわよ」

「ああ……ありがとう」

「その……お父様以外にエスコートしてもらうの初めてなの……だからよろしくね」



 恥ずかしそうに頬を赤く染めながらほほ笑むアイギス。いつもの狂犬のような苛烈さとのギャップに胸がどきどきしてしまう。

 ヒールのためかいつもより少し身長の高くなっている彼女の手を握りエスコートする。やっべえ、カイザードうんぬんとか吹っ飛びそうだったわ。

 そんな風にドキドキしながら俺たちはパーティー会場へとむかうのだった。




久々の更新になって申し訳ありません。


また、よろしくおねがいします。

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