第139話 パーティーとカイザード


 お互いすこし緊張しながらも雑談しながら二人でパーティー会場に向かう俺とアイギス。



「歩くの早くないか? 大丈夫?」

「え……ええ、大丈夫よ。ヴァイスが一緒にいてくれるから不安も吹き飛んだわ」


 

 腕を組みながらそんなことを言われるから思わずドキッとしてしまう。そんな気持ちを落ち着かせるようにして深呼吸をしてパーティー会場の扉の前で待機する。



「それでは、本日の主役である我が愛娘のアイギスとそのエスコートをしてくれるヴァイス殿の準備が整ったようです!!」



 ラインハルトさんの声が響くと同時に扉が開かれて、パーティー会場に一歩踏み入れると拍手が出迎えてくれる。

 さすがは名家のブラッディ家のパーティーだろう。しかも、今回は最初に行った時とはちがい随分と規模が大きい。これはアイギスが望んだことだと聞いている。



「ずいぶんと招待客がいるな。こういうのって苦手じゃなかったか? その……色々な人がいるからさ」




 元々嘘がわかってしまうアイギスは大人数のパーティーは苦手だったはずだ。だからこそ、ちょっと心配していたのだが、彼女は笑顔で答える。



「大丈夫よ!! 私も貴族令嬢としてこういう場になれないといけないの……それに今はヴァイスがいるもの」

「アイギス……」



 信頼に満ちたアイギスの笑顔に思わず俺は微笑み返し……圧倒的な殺意を感じて慌ててそちらに視線を送る。まさか、カイザードがこの場で攻撃してくるつもりなのか!!



「……」



 だが、そこにいるのはこちらを無表情で見つめているアステシアだった。となりではロザリアとホワイトが必死になだめている。

 あの子マジでこわいんだけど……ハデス十二使徒ばりの殺気を振りまいてくるな……いや、マジでハデス十二使徒だったわ。

 あとでフォローしておこうと思いながら、足を進めているとなにやら貴族たちのこそこそ話が聞こえてくる。



「あれはハミルトン領の……やはり、アイギス様と仲が良いというのは本当だったのですね」

「あのラインハルト様がエスコートを認めたということは……ヴァイスはなかなか優秀なのでは?」

「この前も戦争で勝利していましたし、最近は評判もいいですからね」



 ざわざわと語る中にはなぜか俺を褒める声まで聞こえてきた。困惑している俺にそっとアイギスがささやく。



「うふふ、他の貴族の人たちにもヴァイスのすごさを知ってもらわなきゃね。お母さまに色々と貴族のこととか教わっているのよ。難しいけど、私だっていろいろできるんだから!!」



 驚いてマリアベルさんをみると満足そうに頷いていた。つまりアイギスは俺の評判をよくするために無理をしているのか?



「気持ちはうれしいけどアイギスがつらい思いをするんだったら……」

「違うわ。あなたのためにがんばるってきめたの。それに私とヴァイスが一緒に踊るところをみんなに見てほしかったの」



 俺がささやき返すとアイギスは顔を真っ赤にしてうつむいた。そして、その光景を見た貴族たちが再びざわめく。



「おお、アイギス様とヴァイス殿は仲睦まじいようですな」

「アイギス様もそろそろ良いお年ですからね。あんなにおしとやかなアイギス様を見たのははじめてですし、今夜あたり婚約など発表されるかもしれませんな」



 なんか貴族たちの会話の流れが変わってきたな……マリアベルさんとこっそりガッツポーズしているし……アステシアの方からはむちゃくちゃ視線を感じる。

 俺もそろそろマジでそういうことを考えなければいけないよな……そう思いながらラインハルトさんのところまでアイギスをエスコートし終える。



「我が娘もみなさんに祝福されて嬉しがっているようですね、それではしばしご歓談ください」



 ラインハルトさんの挨拶と共に使用人からワインが渡されていっせいに乾杯する。そして、さきほどとのアステシアとは違う視線を感じ……

 一瞬だがカイザードの後姿を見た。俺は周囲を警戒しながら彼についていくことにする。アイギスが俺のために頑張ってくれたように俺もまた、彼女のためになにかしたい……そう思ったんだ。

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