第140話 カイザードの目論見

 カイザードから距離をとりつつ尾行していると、いつかの時にハデス教徒と出会った中庭にで立ち止まった。あの頃はラインハルトさんが利用されそうになっていたんだよな……

 かつてとおなじように魔法を使って気配を消すと、しばらくして、一人の貴族がやってきた。彼は確かラインハルトさんの派閥の一員だったはずだ。



「すまない、待たせてしまったね、カイザード君」

「いえ、気にしないでいただきたい。それよりも……ここにいる貴族たちに悪がいるのだろう?」

「ああ、もちろんだ。君もラインハルトの悪事は知っているだろう? 君の家のように無実の罪で何人も失脚させているのさ。彼のようなやつが何人もいるんだ。だから君にさばいてほしいんだ」



 あとからやってきた貴族が意気揚々と語る言葉にカイザードは首を横に振る。



「それは関係ないと言わせてもらおう。正義は公平でなければいけない。俺の事情なんて関係ないのだ。ただ悪を殺すだけにすぎんよ」

「あ、ああ……そうだね。君はさずかった加護は使いこなすことができたのかな?」

「もちろんだ。あなたが紹介してくれたパンドラという女性の導きでハデスという神の加護を得てた。その点には感謝している」

「は……?」



 信じられない言葉に俺は思わず声をあげてしまった。カイザードがハデス教徒だって? それにパンドラの名前まで……意外なところで出てきた名前に嫌な予感しか感じない。



「ならば安心だ。君の正義をやつらにみせてやってくれ」

「ああ、俺はこの剣と加護で世界中の悪をなくしてみせよう」



 カイザードの加護なんて俺は知らない。ゲームでの彼はアイギスの婚約者でその首をちぎられるだけの哀れな犠牲者にすぎないのだから……

 どうする? このまま奇襲をかけるか? だが、何人ハデス教徒がまぎれているかわからないのだ。



「それと盗み聞きは悪だ。何者か知らないが死んでもらおう」

「くそっ!?」



 飛んできたナイフをはじいた俺は、あわててパーティー会場に戻る。カイザードと真正面から戦うのをさけるというのもあるがなによりもハデス教徒がからんでいるのだ。ここにいる人たちが心配だ。

 一刻も早くラインハルトさんに伝えないと。


 追撃がないかと後ろを振り返った俺は違和感を覚える。もう一人の貴族があわてているに対してカイザードは余裕の表情をくずしていないのだ。

 まるで、絶対負けないとでもいうように……




「おお、ヴァイス君、今君のことを彼らに紹介しようと……」

「ラインハルトさん大変です、この屋敷にハデス教徒がまぎれて混んでいます!!」

「ほう……やつらか……すまない、私はヴァイス君と今後のことについて話があるんでちょっと失礼するよ」



 客の貴族と談笑しているラインハルトさんに耳打ちすると目つきがさっと鋭くなる。そして、使用人たちにハンドサインで何かを訴えると数人がどこかに移動していった。


 

 どうやらこういう状況にもなれているようだ。流石はラインハルトさんということだろう。



「ヴァイス様いったい何があったのですか?」

「急にいなくなったからおどろいたじゃないの」



 こちらの様子を見て不思議に思ったのか、ロザリアとアステシアもこちらにやってきた。アイギスは貴族たちに囲まれているので気づいていないようだ。

 せっかく、頑張って苦手だったパーティーを楽しもうとしているのだ。彼女にはこのまま気づかれないで解決したいが……



「それで、どうしたんだい?」

「それが……参加者にカイザードという男がいたでしょう?」

「彼か……彼にはわるいことをしてしまったと思っているよ……」



 ラインハルトさんが気まずそうに顔をそむけた時だった。パーティー会場の扉が乱暴に開かれる。



「我の名はカイザード!! 悪を裁くものなり!!」



 そこにはいつの間にか正装から鎧に着替えたカイザードの姿があった。その姿に会場全体がざわっとする。



「カイザード君。君が私を恨んでいるのはわかる。だが、大切な娘のパーティーなんだ。じゃまをしないでくれるかな?」



 乱入してきたカイザードにラインハルトさんが落ち着いた様子でかけよっていく。だが、その声色には明らかな怒気が含まれており、参加者全員が息を飲んだ時だった。



「ふふ、我が正義を知るがいい!! 加護よ、あれ『裁き』」



 カイザードが剣を掲げると不思議な光がパーティーホール一帯を覆うと同時にずしりと体を重くなり……なぜか前世の妹にひどいことを言った記憶が脳裏に浮かんでくる。

 何をしたんだとカイザードの方を見つめると、あのラインハルトさんが膝をついているのが目に入ったのだった。

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