第14話 ヴァイスとスタンピード

 魔力回復ポーションを飲んで回復した俺は、無茶をしたことによる説教をロザリアにされてから、領主の部屋にて ロザリアが冒険者ギルドから持ってきた報告書に目を通す。 

 奥の山で多数の魔物を目撃したとの事だ。オークやゴブリンなど様々な魔物がいつもより多くいるらしい。報酬目当てに一攫千金を狙った冒険者の何人かが消息を絶ったそうだ。その様子に俺はゲームのイベントを思い出す。

 おそらくこれはスタンピードという魔物の大量発生の前兆だ。



「確か主人公達はヴァイスを倒した後に、ハミルトン領だけでなく周辺の領土まで侵食している魔物の群れを倒すんだよな……放置されていた魔物達を倒す事によって、領民の信頼を得るイベントだ……やはり、これが原因なんだろうな」



 魔物は強力だ。何らかの手段を考えねば、大量発生した魔物達が我が領土を襲ってきてせっかく上がった領民の忠誠心もまた下がるだろう。それに……少し話すようになって俺も彼らに愛着がわいている。なんとか犠牲がおきないようにしたいものだ。どうするべきか……俺がため息をついていると、ノックの音と共にロザリアが入ってくる。



「失礼します、ヴァイス様。お昼を持ってきました。その……私の料理が大好きという事でしたので、頑張って作らせてもらいました」

「メグのやつ、余計な事を言いやがって!!」

「うふふ、嬉しかったですよ。これからも頑張りますからね」



 彼女は俺と目が合うとニコッとわらってくれたが、この前の大号泣からヴァイスの感情も入り交じったのか、少し気恥ずかしいのだ。あの時のは俺じゃねえんだよ。ヴァイスなんだよぉぉぉ。と言いたいが頭がおかしいと思われるだけだろう。

 そんな気持ちを誤魔化すようにしながら彼女に質問をする。



「それで……これって本当なんだよな。魔物の巣が五つもって……今からカイゼルたちにお願いして、討伐とかしたらダメなのか?」

「中途半端に刺激することになると思うのでやめた方が良いと思います。ハミルトン領の衛兵は洞窟などの狭いところでの戦闘の経験はあまりありませんし、大人数で戦うのには向いていません。セオリーとしては強力な冒険者を雇う事ですが……」

「この前の借金や、治安向上のために衛兵を大量に雇ったのと、新しい産業の発展のために結構使ってしまったんだよな……」

「はい……あんまり無茶はできないですね……」

「周囲の領地に援軍を頼むのは難しいか? 魔物が溢れたら近くの領地も他人事じゃないだろ」

「そうなのですが……その……先代と違ってヴァイス様はあまりパーティーなどに出られなかったのでその……伝手が……」

「まあ、いきなり大して交流もなく力を貸せって言っても断られるよな……」



 俺とロザリアは大きくため息をつく。衛兵が増えたとはいえ、仕事にあぶれていた人間を雇っただけであり訓練中だ。まだまだ実戦で使えるわけではない。

 民衆の忠誠度もまだまだ低いので重税などやればどうなるかは想像に容易い。やっべえ、詰んでるじゃん!! だけど、あきらめるな俺!! ヴァイスやロザリアを幸せにするんだろ!!



「幸いまだ魔物達が洞窟から出てくるまで時間はあるそうです。何とか対処法を考えましょう」

「ああ、そうだな……」



 重い空気の中ノックが響いてメグが部屋に入ってきた。彼女の明るい声に少し心が安らぐ。



「失礼します、ヴァイス様。お手紙ですよー」

「ああ、ありがとう。どんな内容だ?」

「はい、ブラッディ侯爵家さんから娘さんの誕生日パーティーのおさそいの様ですね。あそこの次女のアイギス様はヴァイス様とお年も近いですし、話し相手にと思ったのかもしれません」

「パーティーか……今はそんなのに参加してる場合じゃ……待て!! アイギス……アイギス=ブラッディか!!」



 メグの言葉に俺は絶句する。アイギス=ブラッディはゲームの後半で戦う敵キャラである。なんでも婚約破棄を申し出た婚約者の首を引きちぎって鮮血をまき散らしたことから、『鮮血の悪役令嬢』と呼ばれていたのだ。

 そして、彼女はゲームの敵としてもかなり強敵で、先祖代々伝わる魔剣を使いこなす上に、心眼による回避力アップや、防御無視攻撃、二回攻撃などチートに近いスキルを使う強敵だった。

 誰にも心を開かず部下を駒の様に使う、美しいけど気難し女性キャラだったが、その徹底した冷徹さから、女性人気は高く、一部のM属性を持つ男性からも熱狂的なファンがいるキャラだった。

 迂闊にかかわらない方がいいんじゃ……本来ならばそう思う俺だったが、ブラッディ家は有名な武官だ。ゲーム開始時ではなぜか没落をしていたが、今はパーティーを開くだけの力もあるようだ。



 仲よくしていれば力を貸してもらえるかもしれない……



 幸いアイギスの好きなものなどの基礎情報は頭に入っている。ゲームの知識のある俺ならば彼女に取り入る事もできるかもしれない。



「わかった。参加で返事をしておいてくれ」



 俺は打算的に考えながら、どう彼女と仲良くなるかを考える。軽蔑されるかもしれないが、こっちも生き残るのに必死なのだ。

 それに……もしかしたら彼女にもヴァイスのようにゲームには語られてない辛い出来事があったのかもしれない。幸いまだゲームの開始時間より時間はあるのだ。救えるなら救いたいと思うんだ……

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