第117話 ヴァイスとクレス

 救助者への対応があるというダークネスとスカーレットとわかれて、俺は魔法学校までクレスを運んでいた。

 ちょっと気になることがあり、不満そうにしていたアイギスはロザリアが宥めてもらいつつ別行動をとっている。



「すごいな……こんなにアイテムを集めていたのか……」



 クレスを彼の私室のベッドに寝かせてやり、ついでに部屋に置いてあるものを見る。それは本来ならば物語の中盤でないと手に入らないアイテムだったり、そこそこ強力な武器が置いてある。

 二回目の人生で役に立つアイテムを彼なりに集めていたのだろう。机の上にはいろいろなメモが置いてあるが見てもいいものだろうか?



「ううーん……ここは……」

「ああ、目が覚めたか。バイオレットとアムブロシアは逃がしたがみんな無事だぞ」

「なっ!! 僕は……あいつらにやられて……」



 クレスは気絶直前の事を思い出したのか、慌てて立ち上がってあたりを見回して、ほっと一息を漏らす。

 そして、俺と目が合うと気まずそうに視線をそらした。



「その……足を引っ張ってしまったみたいだね……悪かった」



 まあ、意気揚々と任せてと言っていたのに、あっさりと負けてきたのだ。その気持ちもわかる。だけど、俺はこいつが決して私欲や名誉のためにこんなことをしようとしたわけではないという事を知っている。


 お前はスカーレットさんがバイオレットと話し合う機会を作りたかっただけなんだよな……



 そもそもだ。俺はこいつとして何回もゲームをプレイしてきたのだ。どんな人間かは多少は知っている。



「気にするな。お前はお前で頑張ったんだろ? それはここにあるアイテムやお前の言動からもわかっている」

「ヴァイスさん……ありがとう……」

「それよりもだ、相手はあきらかにこっちの作戦を読んでいる。何かおかしいなって思うことはないか?」

「おかしいことか……」



 実際に一度この世界を経験して人生の二回目のクレスとゲームのプレイヤーとして何度もやりこんだ転生者である俺が話あえば敵側のイレギュラーな存在に関してもわかるかなと思ったのである。

 


「わからない……だけど、僕は前の人生では最終決戦まじかになるまでハデス十二使徒を二人同時に相手をすることはなかったんだ。だけど、今回は違った。あいつらはお互いの弱点を補うようにしてパーティーを組んでいたんだ。あれだけ我が強い連中が徒党を組みなんてよっぽど追い詰められない限りないはずなんだ」

「確かにな……」



 ゲームで例えるならば序盤で中ボスが二人で組んで挑んでくるようなものである。まさにクソゲーじゃねえか。

 それにハデス教徒は基本的にそこまで仲良くはない上にプライドが高い。そうなると……



「おそらくアドバイスを聞くとしたら同じハデス十二使徒からってことか……」



 コンコン!! 



 夜遅くだっていうのにいきなり扉にノックされる。俺はクレスに視線を送るが、彼は身に覚えがないと首を横に振った。


 となると……まさか、敵襲か!! 



 剣を構えながら警戒していると、強引に扉が開かれた。ノックの意味ないじゃん!!



「お兄さま、クレス……お二人はどこに行っていたのでしょうか? 私に内緒ごとはやめてくださいってお伝えしてましたよね」

「「ひぃ」」



 笑顔を浮かべているのに、妙な迫力があるフィリスに俺とクレスは恐怖するのだった。






 ここは王城の十二使徒しか入れない部屋である。そこには三人の人影がいた。ダークネスとスカーレット、それに十八歳くらいの人間離れした美貌を持つ青年である。



「ダークネス、スカーレット見事伯爵の娘を助けてくれた。感謝するよ」

「ふっ、十二使徒たるもの当たり前だと言わせてもらおうか!!」

「あなたね……口調には気をつけなさいよ……」



 序列一位相手にも普段通りのダークネスにスカーレットが突っ込みをいれるが、肝心の序列一の青年クラトスは慣れているとばかりにほほ笑んでいる。



「ふふ、ダークネスはそのままで構わないさ」



 言葉をきってクラトスは鋭い目つきで言った。



「そんなことよりも、我ら十二使徒が守る王都で誘拐事件がおきたというのが問題だ。ハデス教徒はただの邪教の一つとして放置していたが、そうもいかないようだ。十二使徒全員を招集するよ」

「全員集合ですか……」

「ふははは、血沸きに肉躍るというものだ!! 望むところだと言わせてもらおうか!!」



 そうして、ゼウス教はハデス教徒を敵と認識した。それは本来なばらありえないはずの出来事だった。ゲームではすでにどうでもない状況になってからハデス教の存在に気づいていたのだか……

 だが、こうなった状況で英雄は生まれるのだろうか?

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