第114話 少しだけ。

「これ、書いてるのオレなんです」


 オレは望ちゃんに言った。


 あまりリアルの知り合いに、言うことはなかったけど何か言った。


 望ちゃんはホントに『キョトン』とした顔した。『キョトン』の見本みたく。


「えっ、つまり亮介がこれを自分で考えて、その発表してるってことか?えっ、なに、すごい―」


 望ちゃんは慌てて崩してる足を正座して座り直した。


 場所はリビングで室内にはゆったりとした音楽が流れていた。


「あの、私が読んでもいいものなのかな?」


 頷く、生唾を飲んでしまった。


 緊張する。思えば今日は緊張の連続だ。望ちゃんは慌てて音楽をリモコンでオフにした。


 そこまで真剣にされると、どうしよ。


 そんな『お固い』内容ではないラブコメなんだ。楽にして読んでほしい。


 望ちゃんは『リーディング用』のメガネを掛けて1話を読み始めた。


 なんだろ、この得体の知れない緊張感。


 成績表を親に見せる時―いや、緊張したことないか。


 そこそこ成績悪くない。


 色々考えたが匹敵する緊張感がない、どうしょ『どこが面白いの、説明して』とか言われたら。


 その時は『シクシク』泣こう。泣いて誤魔化そう、それしかない。


 1話を読み終えた感じだ、軽く息を吐き出すゆっくりと、そしてオレを見る、うっ、怖い。


「えっ、何これお前が考えてイチから書いたの」


「うわっ、まじでびっくりだよ、何どうして早く教えてくれないんだ」


「あれか。こんな年上にはわかんないだろな、とか思ったりしてんの?いや私精神年齢低いからね」


「いや、でもホントだから、私のスマホからも見れるよね、見ていいよね」


「この1話だけしかダメとかやめてくれよ」


「そのなんだ。こんなこと年上に言われてもだろうけど、今日めっちゃ楽しい!」


 ものすごい情報量を望ちゃんは一気に吐き出した。


 褒めてくれてるのはわかるが完全に圧倒された。


 正座しながらの移動そして、興奮してるのか完全密着で喋り続ける。


 今日めっちゃ楽しいって、それオレもです。


 こんな風な反応してくれるなんて、なんだろ言葉にならない。


「ごめん!謝る。先に謝る、許してほしい!知ってる、知ってるんだ、お前に彼女がいるとか」


「だけどスマン、聞いてほしい。そして無理のない程度に考えて欲しい、恥を承知で言う」


「きっと世の中的にしても、亮介的にしても『ない』のは承知なんだが、スマン申し訳ない、聞いてほしいんだ」


 望ちゃんは一気に喋って、一気に黙った。


 オレは望ちゃんの言わんとすることを感じていたし、同じ感情が自分の中にあるのも感じ始めていた。


「亮介、私はその年甲斐もなく、というか遥か年下のお前に―」


「恋をしている」


「これは私にはとって初恋だ。少しでいい、すぐにじゃなくていい、陰で笑ってくれても構わない」


「嫌だったら明日来なくてもいい―少し考えてくれないか、私のことを無理なら明日は―」


「陰で笑ったりしない。それから明日は来ます―ドタキャンとかしない。来るから待ってて」


 望ちゃんは小さく『コクリ』と頷いた。


 顔を真っ赤にした年上女子が正座していた。














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