第147話 カノジョしてる感じ。

「痛くないか? こんな感じで平気か?」


「あっ、うん。ありがとう―」


 京子は亮介に手伝ってもらい着替えを終えたところだ。


 制服のセーラーの下には体育の授業で怪我した為、着替えずに着ていた半袖の体操服だった。


 スカートは亮介が脱ぐ前に部屋着のスウェットを履かせてから、スカートを脱いだので露出はゼロだった。


「あのね」

「ん」


「誤解されてもいいんたけど」

「ん?」


「さっきね、着替え。私、今リョウに脱がされてるんだって―」


「興奮した?」


「違う」

「残念」


「えっと、


「誘ってるよな」

「誘ってる。根性なしって言ってやる」


 そう言って京子は目を閉じてぺろりと舌出し戯けた。

 目を開けようとするとそこには亮介がいて、唇を重ねてきたので、京子はもう一度、目を閉じた。


 唇を重ねていた亮介は京子から離れない。


 京子の骨折した左手を労りながらも、その手は京子の胸に伸びていた。


 どれくらい過ぎたか―外を走る原付きの音をきっかけにふたりの長い口づけは終わった。


 口づけの間に亮介が荒く触って乱した髪を京子は手櫛で整える。


「今の―」

「なに?」

「何か、って感じだった、かな」


 高揚した京子の表情が1年前に初めて校舎の屋上で、交わした口づけを亮介に思い出させる。


 表情、仕草、その声さえもが大人の雰囲気に京子を変えていた。


「胸を揉みましたね」

「柔らかかったです」


「一応釘を刺す。初めて揉まれましたよ胸、私誰かに」


「オレも初めて揉みましたよ」

「ウソ松」

「誰がだよ」


「私のを揉むのがなだけだろ、エロ松」

「誰のも触ったことない」

「これからわんさか触る気だろ、ドエロ松」


「…」

「返事しとこうか? 殴るぞリョウ」


 そう言って京子は骨折した手を庇いながら、亮介の唇に自分から口づけした。


 廊下で物音がした。妹の雅が風呂から上がってもおかしくない時間は十分過ぎていた。


 京子はもう1度手櫛で髪を整え、亮介は骨折して行き届かない所を手伝った。


 形のいい唇が亮介の目に止まり、そっと親指で触れる。


 京子はイタズラぽくその親指をくわえる。意味ありげに舌でぺろりとした。


「お父さんがさ―」


「このタイミングでお父さんの話題のチョイス」


「ふふっ、絶妙でしょ? ひと息つくには」


「そうだな。冷静になるもんだな」


「言うのよ。お父さん『どっちでもいいから亮くんのお嫁になってくれ』って」


「そうなんだ、ふ―ん」

「リョウのこと、めっちゃ気に入ってる」


「オレもお前の家族好きだよ」


「あっ、今のうれしい。私も」


 京子は立てた膝を抱いて話を続けた。


「『お嫁の話』ね。出るたび雅が無意識だろうけど、するの。勝ち誇った顔――あの娘、得意なの競争とか勝ち負け。燃えるというか」


「私、競争とかド下手。勝てたことないから。だから乙女心も読めないのね」


「『どっちか』なんて競争言われたらさ、お父さん雅の味方なんだって―これ嫉妬だけどね。ただの」


 乾いた笑いを漏らす京子だったが、珍しいことを口にする。


「私―この競争。負けないから」












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