第148話 家族会議。

「私―この競争。負けないから」


 そう言った京子の横顔が妙にかっこよすぎて亮介はドキリとする。


 闘志―そんなのを前に出す京子を見たことがなかった。


「私―望さんにも、雅にも―咲乃にも負けないから」


 そこまで京子が言ったところで、ドアがノックされた。京子のお母さんだ。


 イチャついていたふたりに緊張が走る。お母さんが来たことにではなく、来た理由にだ。


 ふたりして北町家のリビングに降りた。両親と女性担任、雅の姿はない。


 雅は風呂が長い、きっかり1時間過ぎないと上がってこない。


 状況的に担任が両親に今日起きた事と、今後のことを説明と相談していたところだった。


 話によるとこの時間帯、急遽保護者説明会が行われているとのことだった。


 そして明日また今後の対応という形で保護者説明会がある。今日のところは取り急ぎ現状の報告といったところだ。


 そしてふたりが呼ばれた理由は、学校側の説明と事実に違う点がないか、乖離かいりがないかの確認のためだった。


 話は昼休み後藤が話しかけてきた事から始まり、しつこかったので亮介が京子を連れ出したこと。


 5時限目の体育の時間にいきなり腕を掴まれたこと、悲鳴を聞きつけて男子3人と、咲乃が駆けつけ咲乃が背後から後藤を蹴った。


 その辺りの確認をしたのたが、特に新しい事実も見つからない淡々とした時間が過ぎた。


 亮介と京子の中での話だが、咲乃の『蹴り』がなければ、後藤が体勢を崩すこともなく、持っていた京子の手を引っ張って骨折することもなかった。


 しかし、それはふたりは言わなかった。


 後藤が強引に京子の手を握らなければ咲乃の『蹴り』が炸裂することもなかった。


 結果や理由はどうであれ、咲乃が少しでも責められることはふたりは望んでない。


 助けようとしたことには変わらないのだから。


 京子の両親が気にしていることは、今後の京子の安全。それは亮介も変わらない。


 しかし、後藤の処分によっては『逆恨み』がないだろか、不安になるのも当然だ。


「亮くんはその男子のことを知ってるのか?」


 京子の父親が亮介に意見を求める。しかし、亮介も京子も後藤のことはほとんど知らない。


 1年のとき同じクラスだったが、接点がなかった。


「すみません、よく知らないです」

「わたしも」


 京子も口を揃える。両親にしてみれば『それほど面識ない』生徒が何故いきなり、娘の手を握り骨折までさせたのが、納得と言うより理解出来ない。


「問題行動のある生徒ではありませんでした―」


 女性担任の言葉なのだが、その言葉は両親にとっては虚しく転がる。今日立派な『問題行動』をした後なのだから。









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