第143話 あっ。
北町家には既に両親が帰宅していた。その事がことの重大さを語っていた。
亮介は京子の母親からお礼を言われ、父親からは『いつも迷惑をかけて』と頭を下げられた。
亮介は『迷惑』とは感じてなかったが、今そんな事をいうタイミングではないと空気をよんで、何となく頷いた。
リビングでは両親と女性担任の話が始まり、子供たちは2階に行くことにした。
京子の部屋の前で――京子は立ち止まり妹の雅に申し訳なさそうに言う。
「
「うん」
「あのね、雅。心配してくれてるのわかってるのに――」
「こんなこと言うの嫌な姉なんだけど――あんたの『先生』貸してくれないかな――ふたりで話すの久しぶりで――ほんとごめん―」
亮介は雅の高校受験合格後も家庭教師を続けていた。
北町家には来ても京子と話をすることは殆どなかった。
「あ…」
雅は口元を押さえて慌てた。
いつの頃からか亮介を『我が物顔』で独り占めしていた。
北町家に来るのも『自分の客』として当たり前に感じていた。
―でも、姉の『カレシ』なのか『元カレ』なのかはっきりしないけど――
京子の権利が消えたわけじゃないのに――
我が物顔の自分に気がついて漏らした声が『あ…』だった。
そして雅は慌てた――
自分の感情に、自分の中にある亮介に対しての好意に。そして――
姉の亮介に対する思いの忍耐強さに――
京子は――お世辞にも『忍耐強く』はなかった。
色んなことをすぐに諦めてしまう姉。
そんな印象を雅は持っていて――特に春休みからこっちの努力は――
桁外れの迫力があった、変わろうとする気持ちを感じた。だから――
「あっ、ごめん、あたしお風呂入るから――ごゆっくり」
取り繕ってしまった。
引かない、特に姉に対して引かない自分が引いてしまった。
(なんでかな…なんで――ごゆっくりなんていうかな、あたし―あたしだって―亮にぃと)
湯船につかり――雅は自分が口走った言葉に後悔を感じていた。
「別に――」
姉の京子が嫌いではない――特に最近の京子は。
「嫌いではない」
去年までの京子は自分のことを棚に上げて、ただ偉そうに上から目線の嫌な姉だった――
だけど…亮介と別れて。日が過ぎるごとに――いい姉と感じることが多くなった。
優しく、思いやりを感じることが増えて―
そんな京子と接して、雅自身が大人げないと反省することも増えた。
今日だって――京子が男子に暴力を振るわれて怪我した――
骨折するほどの怪我。
激しい震えを感じるほどの怒りと、ショックを感じていた。
それ程に姉を好きになっていたのに――
「あたし――嫌なヤツだよ」
(亮にぃのこと――好きになってる。どうしょうもないくらい。なのに――今更そんなこと言われても――困る)
そう思って――湯舟のお湯で激しく顔を洗う。
(今更じゃない――こんなに変わるくらい亮にぃのこと好きなんだよな――おねぇは)
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