第142話 実感した。

 同じ涙でも――


 見る者の立場が違えば受け取り方も違う。


 京子の流した涙は本人や亮介にとっては――


 達成感的な涙であり、嬉し泣きの要素が強かったが――


 保健の先生が、目撃した感想は『相当ショック』を受けてる――傷付いてる、だった。


 確かにそうなんだけど――


 先生が問題視する程の感覚では――ふたりはなかった。


 だけど、亮介はボンヤリと――簡単には終わらないかも――


 そんな感覚があった。ボンヤリと。



 待合室の長椅子――


 あとから駆けつけてきた――担任の先生――女性年齢は30半ばか。


 京子のギブスを見た瞬間――目を閉じた。


『状況は最悪だ』


 そんな声が聞こえてきそうな、苦い顔をした。


 その表情は運よく亮介と京子に見られずに済んだが、保健の先生には見られた。


 保健の先生はさっきの京子の涙を――目撃していたので、担任の女性教師だけにわかるように――首を振る。


『深刻かもよ』と。


 このふたりは年齢的に近いようだ。



冬坂とうさかくん、ありがとね―同行してくれて―」


 女性担任は平静を装うが――ケガが骨折までしてるとは知らなかった。


 保健の先生は学校にいち早く報告したが――その時には既に病院に担任は向かっていたのだ。



 女性担任は――出来れば穏便に済ますことが出来ないか、そうな淡い期待は水泡となった。



 授業中に――強引に女子の手首を握り――無理やり一緒に『バックレ』ようとしていた男子生徒を周りの女子生徒は目撃していた。



 しかも、昼休みに男子が『ちょっかい』を出していたことも――クラスにいた生徒が証言していた。


 その事が正しい情報なのか――女性担任は確認に来た――怪我の様子を確認するのと同時に。



 事なかれ主義からではなく――


 このままで行けは最悪――後藤は――


『退学』の2文字へと突き進む。


 女性担任が目にした京子の『ギブス姿』はその答えを――


 退学へと加速するようにしか見えなかった。



 しかし、京子が被害者であることには変わりない。


 今ケアされるべきは『北町京子』であり――『後藤』ではない。


 その事を理解した上でも――若者の未来がここで『急展開』することに――


 女性担任は不安を感じていた。


 不安を感じながらも、女性担任は京子と亮介に、起きたことの状況の確認をするが――



『新たな情報はなかった』


 つまり、手にしている情報が答えとなる。


 授業中に嫌がる女子の手首をつかんで『無理やり』バックレようとした。


 その揉み合いの中での――


 骨折。情状酌量の余地があるとは――思えない。


 それを決定的に印象付けたのが――保健の先生と交代し、女性担任が京子と亮介をクルマで北町宅へと送った時――



 玄関先で見た――妹のみやびの姿――姉京子の三角巾姿を目にして号泣した――



『大事な家族』に怪我させられた――


 無罪放免はない。


 女性担任は改めてそのことを実感した。














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る