第10話 お引越しするかも。

「でねぇ、亮介くん」


『カノジョがSNSトークを風呂から掛けてくるのは間違ってるだろうか?』


 新作のタイトルが出来たけど、残念アイデアはゼロ。何よりこの状況に慣れてないから集中出来ない。


 きのうから始まったSNSトークなんだが、なぜか北町は風呂から掛けてくる。


 高校生男子の想像力を甘く見てないか?


 何らかの操作ミスを北町がしていきなりビデオトークに切り替わり『もう、亮介くん!えっちいんだから!』みたいな。


 ラッキーエッチ。


 あったらいいね、と。あれ、これなんか使えるよな。


 付箋に書いてノートの『ネタ』コーナに貼っとこ。


 おっ、と妄想して北町の呼びかけ忘れてた。会話では『京子』なんだけど頭ではまだ『北町』だ。


 北町って響きけっこう好きなんだ。


「どうしたの?」


「きのうから言ってる『PVアップ』大作戦だよぉ」


 PVとは『プレービュー』つまりは自分の小説にアクセスしてくれた件数。


 人気の基準と言っていい。北町はそれを上げたいとおもってる。


「亮介くんいろいろ考えてくれたよねぇ。文字数とか行間とか」


 ぽちゃん、そんな音に男子高校生がどれだけ敏感か考えてほしい。


 いや、考えて止めてほしくはないんだけど。


「どうしょうかなぁ、1話からやってみようかなぁ。」


 北町の声は基本『ほわっ』としてる。聞いてて心地良い優しい響き。


 それにも増して話し方が『ほわほわっ』だがら癒やされすぎて、眠い。


 あっ、と。そのことだけどさっきふと、思いついたんだ。


「京子、実はさ」


 京子に提案したのはこうだ。


『カキコム』は第1話の『工事』と最新話からの書き方変更をする。


『第1話』は少しだけ行間を開ける。


 これは初めてくる人が『取っ付き易く』するためだ。


 最新話からは『文字数』と『行間』をあける。


 ここまでは昨日から話してることの最終調整。


「京子ここからはこれからどうするかの提案なんだけど、長くなるから―」


 風呂上がってからにしょう。そして上がって髪乾かしたりの間にオレ風呂済ませよう。


「早いよぅ。何で後から入って追い抜かされてるのぉ」


 北町はスマホの前でちょっと膨れた表現。学校では見たことないオレだけの特別。


「あのねぇ、うれしいことあるのぉ」


 北町は『てれてれ』しながら話し始める。


「亮介くんのコメントブーストぉ!」


 小説投稿サイト『カキコム』は作品の評価から作品紹介的なコメントが書ける。


 それが『カキコム』自体のトップページに載り読み手はそれを参考にする。


 作品評価は新しい評価が入るたびに下に行く。つまり評価している時間帯は『すぐに下に』行って注目度が下がる。


 例えば昼休みの後半とか、朝の通勤時、夕方帰宅時なんて僅か数秒で『下に』スクロールされる。


 オレが評価したのは昼より前で運良くトップページに小一時間晒されたんだ。


「はじめての3ケタPVですぅ」


 パチパチ!オレも一緒に手を叩いた。楽しい、なんだろこの臨場感は。我が事よりうれしい。


「そうだ、提案って言ってたよね。何なに?」


 相変わらず甘えた響きにタオル巻き巻き頭そして今日はブルーのギンガムチェックのパジャマ。


「うん、考えてたんだけど。引っ越してみる?」













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