第67話 期待に答える。
「あなた、それでいいの?」
陽茉ちゃんの言葉はオレに向けられた言葉だ。いい訳はない。
詩音が無言でしてくれたこと、オレと一緒の夢に自分の夢を重ねてここまで来た。
嫌われることすら躊躇せず取った行動をどうしてこのままでいいのだ。いい訳ない。
いい訳ないけど。浮かぶのは京子の横顔。詩音に対しての感情に嘘はない。それは京子に対しても言えることなんだ。
京子に対しても―
「責めないで。亮くんを」
「責める?」
「私を今庇えば京子とわだかまりが出来ます。ふたりに作って欲しくないです」
「でも、あなたは―」
「あ、私はいいんです。今は。ホントに十分なんです。もう亮くん話せないかも、亮くんの側に寄れないかも嫌われてるよね、絶対に。そんないろんな心配を亮くんは消してくれたんです」
「だから、今はこれで私はお腹いっぱいなんです。ありがとうございます、その私のこと考えてくれて―その、お姉さん」
「陽茉ちゃん、でいいよ。あなたは?」
「詩音です、その出来たら私のこと呼び捨てにしてください。その陽茉ちゃん」
陽茉ちゃんはオレの顔をちらりと見た。陽茉ちゃんはキレイな形の唇で笑い、詩音の頭を大げさに撫ぜて呼んだ。
「よろしくね、詩音」
1度泣き止んでいた詩音は笑いながら泣いた。おかしな子ね、陽茉ちゃんは微笑みながら呟く。
「亮くん―わたし。がんばった」
「あぁ」
オレは詩音チャリンコの後ろに乗せて前に進んだ。来たときと同じでチャリンコは押していた。
見ようによれば何処かのお嬢様を送っているようにも見えそうな感じだ。
「亮くん」
「ん」
「褒めて」
最近詩音が急速に『京子化』してきた。それでも京子なら『褒めろ』と命令形のような気もする。出し惜しみするつもりもないので、オレは素直に褒めたい。
「いいのかな、と思うよ。オレにそんな値打ちあるのかな、そんなお前に必死になって貰えるくらいの値打ちあるのかな、そう思ってたよ―」
「思ってた―過去形ね?それで」
「うん、過去形。思ってたけど、お前が必死になって惜しくないくらいにオレがオレを成長させればいいだけのこと。だから―」
「ふふっ。だから?」
「お前が必死に努力した価値はオレには十分ある、だから安心して努力し続けろ」
「ふふっ、おかしい。ウケる、なに?お前はオレにふさわしいって?上から目線だね、それじゃこれから相当頑張るんでしょうね?ふたりの期待に答えれるくらいの男よ?」
「ちょろいよ、ふたりの期待くらいぶっちぎりでこなしてやるよ」
「ふたりの期待くらいってふたりで十分だからね?それ以上はいらないよ、女子枠増やさないこと、いい?」
「増えたら自信ないの?」
「ん、煽ってる?それとも公然と浮気宣言かな?しばくわよ」
あ―京子化進んでるよ。
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