第95話 陣中見舞い。

 詩音と明日の電車の乗る車両を確認してビデオトークを切った。


 時間は日付が変わってもう結構過ぎていて、誰かに連絡していい時間帯じゃない。


 遅い時間だがオレは、いきなりビデオトークを掛ける。


 普通に掛けている時間でも中々ビデオトーク始まりはしない。単純に相手への配慮、部屋着とか髪型やら、何してるかわからない。


 風呂だったりしたら洒落にならない。


「―亮ちゃん」


 突然のビデオトークのわりに普通に出た。時間は日付の変わった深夜。


 互いの部屋の静けさから拾われるホワイトノイズ。


「もしかして励ましの電話だったりする?」


「そう。必要ないだろうけど―」


 オレがビデオトークしてるのは、京子ではない。


 佐々木咲乃。「死の天使エンジェル・オブ・デス」だ。


「―そんなことない。あのうれしい」


 咲乃のはレイアーボブを掻きあげて自嘲じちょう気味に笑う。


 その表情は『わかるでしょ、進んでないの』と語りかけてくる。


 前にも言ったことがある。佐々木咲乃はどうしようもなく好みな女子だ。


 顔、表情、声の響き。そのすべてがまるで遺伝子に直接書き込まれたかのように、好意を抱く。


 それは性格の一面を覗いた後ですら。そのことは佐々木は知ってるだろうか。


 もし知っていたらあの『一面』は出してないか。出さなくても十分オレの気はけていたんだから。


「邪魔じゃないか、邪魔だよな―」


 鼻からぬける声で首を振り否定する。そしてまた自嘲気味な笑み。


「単純にただただ嬉しいよ―私なんかに、ね?」


 嫌なことに言った私なんかに。そんな意味だ。気にはしてるんだ。


「亮ちゃん、疲れてるのに。こういうの陣中見舞いっていうのかな、有り難い」


 スランプな咲乃はしきりと感謝の言葉を繰り返す。


 弱々しい視線は宙を舞い、落ち着かない。あれだけの文章書けるヤツがなんてざまだよ、声を荒げたくなる感情を抑える。


 弱ってるヤツ追い込んてどうすんだよ、ほんと。


「気使わしてるよね、遠慮しなくていいよ。全然進んでないから、進む見込みもないし―びっくしりた。私こんなにダメなヤツなんだって」


 よほど積んでるのだろう。自虐ネタを口にすると止まりそうにない。


 夜中の妙なテンションもあるのだろうけど。


「なんで掛けたかわかる、ビデオトーク」


「わかんない、性悪な私だったら『あざける』ためだってのはわかるけど、亮ちゃんだからね。またお人好しモード突入したの?相手見て使わないとね、そのモード。利用されるのよ」


 咲乃が無意識でするため息が重量級だ。


 大丈夫か、大丈夫なわけないよな。どうしたもんかな。ハッキリとした目的というか、目標が見えて電話したわけじゃないんだ。


 話もって考えるか、みたいな軽い考えだった。


 さぁ、なんかいいことオレは言えるのだろう。今はまだわからない。

















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