第161話 静観。

 それはともかくとして、避けてきたわけではないが触れなかった話題がある。ふたりでいる時間に敢えて触れなくてもと思って出さなかった話題。その話題のせいもあって亮介は北町家に泊まることになったのだが。


「後藤の件だけど」京子の家族が起き出してきたことを境に触れることにした。

「あぁ」そんな話もあったよね、京子の反応はそんな感じだった。後藤との間に起きた事件より亮介との間に発展があったことの方がふたりにはインパクトが強かった。


 どうでもいい訳じゃないにしても学校側があまりに方向性を示していないのに、どうこう言っても仕方ないが、後味はよくない。実際京子は骨折までさせられている。その後の対応次第では精神的な負担は大きい。


「なんであんなことしたんだ」根本的な疑問を投げかけたところで本人ではない「さぁ」と答えるに留まる。強引に行けは京子をおとせるとでもおもったのだろうか。わからないが、普段の京子の印象はどうであれそんなに気が弱い女子ではない。今回のような行動に対して反発しない訳がないのだ。実際骨折するまで抵抗しているのだから。


「静観するか」

「だよね」何にしてもふたりで迎えた朝には相応しくない会話だったと亮介は反省した。触れない訳にもいかなくても。


 リビングにふたりして下りる。京子の両親もまた「静観する」とのことだった。保護者会にも参加しないらしい。自分たちが台風の目になるのを嫌ったのだ。いい考えだと亮介は感じた。後藤を罰して欲しいわけでもない。ただ京子が平穏に通学出来ればそれ以上は望まない。


 京子の保護者が参加することで後藤にとって厳しい結果になるのは誰にとってもいいことには思えなかった。なんにしても学校主体の解決が望ましく思えた。


 リビングでは雅が生あくびをしていた。保護者会の関係で部活が中止になったらしい。予想はしていたが朝練がある前提で早起きしたのだ。亮介を見かけた雅は退屈さを最大限にアピールする。

「亮にぃ、たいくつなんで『ナッシュビル』にモーニング行こうよ、ねぇ」

「あんたって子はどんだけ空気読めないの」京子は軽くギブスで雅の頭を『チョップ』する振りをする。雅はそれを白刃取り風に捕らえる。雅は望と亮介のことをあまり知らなかった。そもそも恋愛絡みは疎い。


 それでも京子の両親は近所の喫茶店のモーニングに亮介を誘う。断る理由もないし北町家全員と一緒になることは意外に少ない。誘われるままに同行し昼過ぎに自宅に戻った。



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