第185話 会長のお願い。

「おまたせしてすまない。私が生徒会長の登川のぼりかわ夏波かなみ。こっちらが」

「田所ゆりかです」


 長身女子は軽く会釈した。思ってたより愛想いい。もっと上からな感じを生徒会に持っていた亮介は意外だった。


 何せ放送一本で呼び出すのだ。用事があったらどうするのだ。実際京子を送る用事があったし。まぁ、大人気ないし、相手も思っていたより低姿勢ぽいのでここは抑えると決めた。


「いていいの?」これまた意外にも咲乃が気を使う。気を使う割にはスマホで最新話の校正をしてるが。


「構いません、佐々木さん」

「名前知ってんだ。生徒会長だから?」

「いや、冬坂くんの周辺にいるから知ってるだけです」生徒会長登川夏波は淡々と話す。


「亮介。これ、新手のナンパだわ」それだけ言うと満足したのか咲乃は校正に戻った。


「ん……登川?」戻ったと思いきや咲乃は珍しく素っ頓狂な声を出す。

「知ってんの?」

「ほら、担任も登川」

「そうなの?」亮介はいまいちその辺に興味を持ってなかった。


「お姉さんだ。登川の」


 副会長の田所が補足する。ここにきて亮介はようやく『ちょっとまずいかも』そう思い始めた。


 というのも、京子の骨折の件で北町家を訪れた担任登川。学校の『丸投げ感』に亮介は噛みついていた。普段そういう事はあまりこの男はしなかった。


「ということは、アレですが。お姉さんに対する態度を聞いてる感じなんでしょうか?」亮介は恐る恐る尋ねる。


「聞いてる。家で聞かされた」やっぱり。

(担任登川! 守秘義務的なのはないのか?)心で叫んだところで覆水盆に返らず。


「つまり、オレに怒ってるわけですか、会長は……」


 恐れる必要はないものの姉の陽茉に弱いように、亮介は少し年上にやたらと弱腰だったりする。


「怒ってる? いや。全然。むしろ感謝の極みだ」

「感謝の?」

「そうだ。姉は外ヅラはいいが、家の中では最悪だ。特に末っ子の私にはとんでもなく酷い」


「そんな風には見えないけど」

「そうなんだよ。外では猫かぶりまくりだからな。本当は冬坂くんの教室まで行って事の詳細を聞きたかったのだが。なにせ担任が姉だからな」


「まぁ、そういうわけで完全な私用で呼び出したわけだ。冬坂くんには悪いが夏波の相手を少ししてやって欲しい」


 副会長が申し訳無さげに補足する。

「いや、悪い。実のところ完全な私用ではない。冬坂くんに頼みたいことがある、前から頼みたかったんだが中々言い出せなかったことだ」そう、夏波は前置きする。


「夏波。例の件か?」副会長田所が心配げな表情を浮かべるも全体像が見えない亮介にはまるでわからない。


「冬坂くん。君にしか頼めないことなんだ。話だけでも聞いてほしい」会長の夏波はため息と共に亮介を見た。





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