第184話 嫌な予感。
「雅。悪いけどオレ生徒会呼ばれてるから京子の荷物持って帰ってくんないか」
亮介はムスクれた京子を連れて一年の雅の教室を訪れていた。先程軽率な言葉を口走ったとは言え、そこそこ責任感の強い亮介。骨折の京子を一人で帰すことはしない、とは言っても、どれくらい時間が掛かるかわからない生徒会の呼び出しに付き合わせる訳にもいかない。
雅にこの事を頼むということは部活を休んでもらうことを意味した。
「うん、わかった」雅は二つ返事だ。
(うわっ、何この物分りのよさ。こんないい返事、家で聞いたことないよ)姉ながらナイスな外面の妹に少し引く。
「リョウ、帰ったら連絡ほしい」京子はそう言って手を振った。
その時咲乃は見えないところで亮介の戻りを待った。それに気付いた亮介は―
「帰んないのか」
「待つ」
「遅いかも」
「だから待つって」言葉は半ギレ風だが、隣り合って歩く廊下で、そっと手を触れさせる。繋ぐでもなく、そっと。
亮介にとってこの距離感はたまらなく居心地がいい。男女問わす咲乃と居るときが一番リラックス出来るのかも知れない、それは以前から感じていた感情だ。しかし、それを言葉にすることは少なかった。
「咲乃…」
「ん、なに」
「好みだわ」
「知ってる。知ってるけどうれしい」咲乃は珍しいく女子の顔をした。
生徒会室の前に着いた「どうする」亮介が聞くまでもなく咲乃は同行入室する気なのか扉の前で横に並んだ。別に一人で来いと言われたでもなく、用件さえ聞かされてないのだ。同行を禁止されたらその時考えればいい。
「失礼します」一応マナーとしてノックしたものの、返事を待たずに扉を開けた。扉を潜ると想像していた生徒会室ではなかった。教科準備室より若干広いものの置かれているのは折り畳みの長机と折り畳みのパイプ椅子。
そして正面には想像通り眉間にシワを寄せた女子が座っていた。その傍らに一人、長身のこれまた女子が立っていた。
「なに?」椅子に座った眉間にシワを寄せた女子が不機嫌そうに尋ねる。
「いや、その特に用事なかったです。さようなら」嫌な予感の亮介は咲乃に目配せし撤収を計るも長身女子の耳打ちにあい、素性がバレた。そんなわけで撤収作戦は失敗する。
「冬坂くん。すまないが少し待ってほしい」素性がわかったからか、言葉使いがさっきより丁寧になった。益々嫌な予感の亮介。咲乃はさっさとパイプ椅子に腰掛けた。
「亮介。私、明日の更新分まだ編集してないからここでするわ」そう言って咲乃はスマホ片手に小説の校正をし始めた。
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