第150話 急転直下。

「亮くんに矢面に立たせて、申し訳ないと思う―」そんな切り出しで、北町家の主である京子の父は口を開く。


「我々の意見は彼とまったく同じです。これから先の将来京子と関わる者なら誰しも願う形は、彼の言うとおり、京子の心の平穏と加害者の安定です」


 京子の父は後藤のことを敢えて『加害者』と呼んだ。口調は穏やかさを保っているが、納得してない―そう言葉は表していた。



 その日はそこでお開きとなった。今日は金曜で明日は学校は休みだった。2回目の保護者会が午後から予定されているようだ。


 京子と亮介の女性担任は帰る道すがら保健の先生に電話をした。ハンズフリーなので運転しながらでも大丈夫だ。


「どうだった?」保健の先生が口火を切る。

「ん…予想してたより―」

「ご両親が?」

「ん…冬坂とうさかくんかな」

「あ、まぁ…仕方ないか」保健の先生は病院に連れて行く際ふたりの関係を聞いていた。1番熱くなっても仕方ないかも、そんな予感はしていた。


「保護者会の方は?」担任がたずねる。

「状況説明だけで質疑応答明日に持ち越しよ」何も前進してないことを女性担任は確認したに過ぎない。


 いい時間が来ていたで亮介は帰宅の準備をしていたが、京子の両親に呼び止められた。


 食事を共にしょうとのお誘いだった。亮介自身空腹だったし、雅の家庭教師の日はご馳走になっていたので断る理由もなかった。


「リョウごめん、お風呂入っていいかな」京子の問いかけにうなずくと京子は早々に姿を消した。背後で『ぷしゅ』と音がした。雅の慌てた声がする。


「ダメじゃん! お父さん! 亮にぃ送らないと!」その声虚しく一口お父さんは呑んでしまっていた、ビールを。ちなみにお母さんもワインを口にしていた。


 慌てた雅は風呂場の京子にその事を告げる。急ぎ亮介の家に電話することになるが父親は夜勤、母親は夜の運転は苦手とのこと。


 電話を代わった京子の母親は陽気に話し掛け、あれよあれよと亮介のお泊りが決定した。


「えっ、リョウ泊まるの」風呂に入っている間に急転直下お泊りが決まっていた。


 ちなみに亮介の意見は聞かれてない。明日土曜だし亮介のことを気に入っている両親は泊まってほしかったのだ。


「いいの? リョウ」そうたずねる京子の顔は真っ赤だ。風呂か上がりだけが理由ではない。さっきまでの自室のことを思い出していた。


「亮にぃ、着換えコンビニ行く?」最近のコンビニは簡単なパンツとシャツくらいは売っていた。それもそうだなぁ、そんな風にかけたとこに。


「こんなこともあろうかと!」京子の母親は袋を得意気に差し出す。その中には新品のシャツとパンツ、パジャマが入っていた。


 そして何故か一番はしゃいでいたのは京子の両親だった。






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