第173話 それもいいなぁ。

「私がバカだったわ」咲乃は自宅のリビングのテーブルでこめかみを押さえる。ここまで『ぶっ飛んだ』ファミリーだとは思ってなかった。ぶっ飛んではいるのは知っていたがここまで『限凸』して来られると引くと言うより、言葉を失う。

 そして現在進行形で『ぶっ飛んでた』咲乃ママは気を利かせて『ご両親に連絡するわ』と亮介から連絡先を聞き出す。そのついでとばかりに亮介と『フレンド登録』を済ませた。もちろん咲乃アニも同じだ。あれよあれよと三人は『グループ設定』された。

(なんで私抜きでグループ設定するかな、意味分かんない)我が家族ながら意味不な方向のノリに呆れ果てた。


 しかも呆れ果てるのはまだまだこれからだ。亮介の母親の携帯を聞き出した本来の目的は『息子さんを今晩お預かりしますので、ご心配なく』の電話をかけるため。社交性満点の咲乃ママ。いい感じのつかみから安定のトークを展開した(あれ、案外ちゃんと母親してんじゃん)感心しかけたのも束の間。

「ご安心ください、息子さんはちゃんと私の部屋に泊めますので」それを聞いた咲乃は勢いよく『粗茶ですが』とばかりに亮介目掛けてお茶を吹き出す。

(ママ!! 安心できない!! 何息子さんちょっと借りますから、みたくしてんのよ、いや待って断ったらいい訳じゃないからね?)亮介の母親が聞き間違えててくれることを祈った。


 そしてこっちはこっちだ。相変わらず咲乃アニは亮介の手を持ってる。見ようによれば手相を見てるように見えなくなかった。

「アニは何してるのかなぁ、妹の彼氏の手握りしめて?」

「ん? 手相を見てるんだけど……今日素敵な出会いがあるみたいだ」

「察し」

「ママ。何を察したのか娘的に全く察すること出来ないんですが?」

「咲乃、楽しい家族だな」

「亮ちゃんの目は節穴か!?」一体何回頭を抱えたらいいやら。咲乃は些細なことから己の生まれを呪った。


 風呂から上がった咲乃は無造作に髪の毛をバスタオルで拭きながら『ドスン』と亮介の座るベットの隣に座った。座ると同時に咲乃は無遠慮に亮介と唇を重ねた、割とディープなヤツを。

「なにコイツ、調子こいてるなって思った?」乱れた前髪、漂うシャンプーの香り、形のいい唇がそう話し掛ける。

「別に思ってない」

「そう? じゃあ『なにコイツ、家族の前で彼氏扱いしやがって』は? 流石にちょっと思った? お前彼女じゃねえし、とか」

「あれな。あれは驚いた。別にそこまでの話か? それに―」

「おっと、それに頂きました! 聞こうじゃないか、夜は長い」咲乃との会話はいつも軽快だ。テンポよくて表情がコロコロと変わる。普段人前だとそうでもないので、自分にだけと思うと亮介は気に入ってた。

「それもいいな」亮介は主語なしで語る。





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