第174話 幻の右。

「それって何かな? 主語は? 物書きでしょ? まぁいいわ、当てたげる」咲乃はコホンと咳払いし正座した。そして亮介のマネをして話す。

「別に、咲乃が彼女でもいいかな、ってちょっと思った。みたいな? どうよ、似てる? 似てるよね? 何々黙り込んでさ、アレ? 当たり引いちゃったとか?」咲乃は亮介の前ではにぎやかにしてるが、基本落ち着いた言動が多い。そんな咲乃があたふたした。

(ヤバい、これってちょっと気まずいヤツじゃない? 夜は長いって言ったばかりだよ、私ったら)それでも言ってしまったのだから、仕方ない。あとは亮介の返事が拒否じゃない事を祈る(泊まりにくる位だから)大丈夫なはず。


「重なりますが、いいですか?」

「いきなりの二股宣言!! いや、知ってるけどね。面と向かって言われると、そこはかとなく湧く我が殺意。いとおかし。いや、いとおかし、大変趣きがあるじゃね! いいけどね、私は。でも条件あるからね」

「条件?」

「まずは『女子限』ね! アニはダメよ、あと公人も」

「公人くん? なんで今公人くんなんだ?」

(あ―っ、そっち系にも鈍感なんだ。いや、そっち系鈍感はウェルカムだけどね)

「ん? いやなんでもない。あとママもやめてよ『どんな感じか試してみたい』はダメ! ここ頼む! 人としてやめてよ! 兄とか母とかと三角関係なんてメンタル削れることは勘弁して」

「わかった努力する」

「は? 努力しないとムリな感じなの?」

「そんな全部にツッコんで疲れないか」

「疲れるわよ。疲れさすようなこと言わないで。ここ約束してよ」

「わかった約束する。あとさ場合の申告どうしたらいい?」

「はぁ? 二股じゃない? 何股よ? あと申告どうしたらって、ここ市役所じゃないわよ、申告しとけばいい的な考えてダメよ! ちなみに何股?」

「現状二股で、ゆくゆくは4股かな?」

「ゆくゆくって、なに? 攻略対象なの? ギャルゲーなの? あと4股の内訳次第ではキレる、いい心して名を挙げよ、マジ切れだからね? 今晩何にもしてやんないからね!」咲乃の雑な脅しに口を割りやすくなった亮介は名前をあげる。

「まず、咲乃」

「まぁね。私入ってないパターン考えてなかったわ。最後まで呼ばれなかったら泣いてたわ」

「京子」

「まぁ、わかる」

「詩音(仮)」

「まぁ、妥当だけどなによ(仮)って」

「今全然だけど、一応申告しとくか、的な?」

「まぁ、いいわ。詩音は幼馴染枠だしね、で?」

「で? とは?」

「ここまではあらかた予想がついた番付表だけど、あと一枠。もしそれ私的に地雷だったらわかってるよね?」

「わかってる。今晩何にもしてくんないんだろ?」

「は? 亮ちゃん制裁軽すぎだろ? ここは私の幻の右が火を吹くとこよ、見せ場よ」咲乃は拳をふうふうして準備を整えた。

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