第32話 不穏なふたり。

「ベロチューも演技のうち?」


「違う、ここからはね。『ふたり』」


 マズイ、マズイ、マズイ!そんなトロンとした目で見られてどうもない男子高校生、手を上げろ!よし、いないな。よかったわ、いなくて。そら、いないわ。


 オレも正直『親友ストッパー』なかったらしてたかも。


 いや、まだ過去形ではない!


 咲乃!いつまでトロンとした顔してる!その顔アカンやつだ、バーガーショップでしたらアカンやつだ。


 ヤバ。ここがバーガーショップで咲乃が京順のカノジョじゃなかったらマジでどうしょう男子高校生!


 なんでこうなった、考えよう。考えないと。理性崩壊する前に。いつからこんなドキドキ感が…バイト中?


 詩音しおんの取り巻きとのゴタゴタ中に1度だけ合った視線。

 そこから、なんか変なモヤモヤした感情が芽生えて――あっ。


』じゃねえ?


 あの時のドキドキ感が――今?そしてフォーリンラブ!?


 いやいや、そんなノリで親友とカノジョ失ってる場合じゃ…


 ないかな?


 ダメだ!感情が断定形になってない!


 疑問形になってる!


 この時点で自分の感情に自信が持ててない。


 恐るべし『吊橋効果!』


「どっか、いく?」


 おっといきなりの場所チェンジ。


 えっなに、これ私の部屋来る?両親旅行なの。的な!?


 あっ、ヒラメいた。


「トイレ行ってくるわ!」


 オレはダッシュでトイレに逃げた。

「あっ、ヘタレた」



「あそこで逃げるんだ」


 チャリンコ押しながらの家路。サバサバとした反応。

「そら逃げるだろ。逃げてなかったら――」

「ほうほう、ベロチューしてたと。なかなか私もいいセンいってるんだね」


 否定はしない。すべては『吊橋効果』のなせるワザ。


 何よりカレシ持ちのくせに挑発的な態度は頂けません。


 危うく頂くとこだったじゃないか。


「亮ちゃん、バイトどうする?」


 しばらく黙っていた咲乃が口を開く。『どうするの』は文字通り『どうするの』であって、今日みたいなことあったから辞めるの、と聞きたいんだろう。


「行くよ。柚原のことは身から出たサビだし」


「そっか。続けるのか、よかった」


「雇ってもらっていきなり辞められんし。京順との約束もまだだしな」


「あっ…それね」


 咲乃はキョロキョロと視線をそらす。どこか落ち着きがない、気のせいかな。


「そうだ、連絡先とか諸々交換しとこう。薬師寺経由すると連絡掛かるし」


 そう言って咲乃はスマホを取り出す。チャリンコを止めて。そこはちょうど公園で季節がいいので気分は最高だ。


「写真とっていい?アイコン用にさ。連絡先たくさんあるとぱっと見わかんないから」


「別にいいけど――」


 答え終わるのを待たずにシャッター音がした。


 取り終わったヤツをみて「ちょっと大っきいからもう1枚」と撮り直して身だしなみを整えだした。


「あのさ、ベロチューしそうになったよね?私の写真欲しくないの?」


「でっかい声でベロチュー言うな。今撮らしてもらうとこだったのに――」


 さり気なく嘘をつく。まったく写真撮ることなんて浮かびもしなかった。


 そう言えば、京子の写真持ってないなぁ。














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