第179話 バチバチ。

 授業中教室の窓から校庭をなんとなく京子は眺めていた。男子は持久走をしていて、女子は幅跳びをしていた。ほんの数日前に見た風景、クラスメートの後藤に骨折された絵と重なる。後藤は休みだ。休まされているのか、休んでいるのか知らないけど。


 頬杖をついてみる。リョウには恋する乙女に映るだろうか。まぁ、見てないか。チラ見すると咲乃と目が会う。

(火花?)そんなエフェクトが走った。あまり気にしてこなかったけど、咲乃の立場になれば私は確かに虫のいいヤツだ。リョウと別れてウジウジとしている間、咲乃はリョウの側に居ようとした。通学の電車とか。何より、

(リョウといるために転校までしてきた)いくらリョウが鈍感でも伝わるよね。


 そして何となく、偶然なんだけどそこはかとなくズルい自分。骨折にかこつけてリョウと仲直りした上に……関係を進展させた。最後までではないけど、友達では辿り着かない関係になってる。咲乃は知ってるのかなぁ…京子は何となくは考えて『ドキリ』とした。

(咲乃はどうなの?)考えもしなかった壁に京子は衝突した。京子の中では咲乃はノーマークだった。軽く見てるとかではなく『望』の存在が大きかったから。

(でも、時系列的に考えて私が思ってたほど望さんとの関係は進まなかった。その間に咲乃がいた……?)そうだとしたら今の火花は説明がつく。


 骨折をネタに復縁なんて……サイテイ。でもサイテイのどこが悪いの? 今の京子はそんな感傷を跳ね除ける勇気を亮介に貰っていた。教室での机の配置。亮介を挟んで対角線上に京子と咲乃がいた。咲乃が机ふたつで、京子が机三つだ。

(この配置と三人の関係は同じだ。きっと咲乃が机ひとつ分リョウに距離が近い)それでも京子に焦りはなかった。

(前の自分じゃない、今の自分ならリョウは逃げない…たぶん)後半尻すぼみになったが胸を張る京子に亮介が声を掛けた。チャイムが鳴って昼休みだった。


「キョウ。昼食堂だろ? 行くか」

「あっ、うん。でもこれだからなぁ…リョウ。食べさせてくれるの?」京子は甘えてみることにした。きれい事では亮介との距離を詰められないと咄嗟に判断した。

「いいわよ、食べさせてあげるわ」ふたりの会話に口を挟んだのは咲乃だった。

(やっぱり。バチバチだ。いつもなら咲乃、このタイミングで口挟まない)

「ん? 咲乃が? まぁその方がいいか。流石に食堂で『あ―ん』はないわ」そう言って京子のお昼のお世話は咲乃に任せた。

「咲乃。食堂には『おでん』ないわよ?」

「残念ね。アツアツの玉子食べさせたかったわ。アツアツのおうどんにしょうか、京子?」

「ははっ。どうしても『押すな押すな』する気ね」意外に仲のいいふたりに安心して亮介はひとり廊下に出た。





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