第178話 アピール。

「こうなるような気がしてた!!」ぎぃこぎぃことペダルを踏み締めながら咲乃が叫ぶ。

「そうだな、普段から油刺さないと」亮介は呑気に立ち漕ぎする咲乃の自転車の後ろに後ろ向きに座って答える。

「油ってなに?」咲乃は息切れをしながら尋ねる。

「チャリンコだ。油刺さないから軋むんだよ」それに引き換え涼しい顔の亮介は返事する。

「何の話だか!」

「お前が言ったんだろ?『こうなる気がしてたって』自転車の軋みだろ?」

「亮ちゃんバカなの? なんで半ギレでチャリンコ飛ばしてんのにそんな話するかな。違うわよ!『早くに起きて亮ちゃん送るって』話よ。ママとアニに早起き出来るわけないって話!!」

「じゃあなんで朝ギリギリまでイチャつくだよ」

「しょうがないでしょ! 学校じゃ無理なんだからって言うか代わってよ! 男でしょ」

「ははっ、オレは『男女雇用機会均等法』を地で行く男だ」

「意味分かんない! 覚えてろよ! 今度ヒイヒイ言わせてやるからな」

「ヒイヒイ言ってやるの間違いだろ」

(まったくこの男。口が減らない。そこがいいんだけど)鼻に抜ける笑いを堪えた。

「じゃあ今度ヒイヒイ言わせてよ、約束しなさい」

「無駄に偉そうだな。ヒイヒイ言わせてくださいだろ?」

「言わせてください」咲乃は勢いよくサドルにふんだ。

(ダメだ。完全に惚れてる。知ってるけど、思った以上に)

「よし、わかった! 咲乃代われ。遅刻するぞ」亮介はようやく咲乃とチェンジし咲乃は荷台に収まった。チェンジしたものの亮介は、さして急がない。危ないし急げは急ぐほど咲乃との時間が減る。

(いつまでもあるか…)亮介はフラグめいた言葉を呟き駅に向かった。


 校門でちょうど京子と一緒になった。クルマで母親に送ってもらっていた。ギブスに三角巾なのだ。カバンを持つにはちょっとたいへんだ。亮介の姿を見た京子の母親は前日から頼んでいた帰り京子を送ることに『ごめんね、お願いね』と。亮介的には全然構わなかった。京子のかばんを持ちクルマを出す京子の母親に手を上げた。


「リョウ、ありがと。ごめんね」京子は照れくさそうに笑う。そんな様子を見て咲乃は、

(おかしいなぁ、意外にざわざわしないわ。なんでだろ? なんの『関係もない』望さんにはするのに)そこまで考えて咲乃は心で舌打ちをする。

(ダメだ。これ奢りだわ。きっと私。京子には負けないって思ってるんだわ。そんな考えならきっと…足元をすくわれる)

「亮ちゃんの持つよ」普段京子の前では少し引いた感じの咲乃は今朝は前に出る、そして京子の鼻先で髪をかけあげ、鼻歌を歌う。

(あれ? このニオイ……今朝のリョウと同じニオイ? それにこの鼻歌……リョウがいつも口ずさむフレーズの…)


 京子は咲乃のアピールに気付く。



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