第113話 これ書いてるんです。

「ごちそうさまでした」


 カレーも無事完成し、つや姫もふっくら炊きあがり美味しく頂くことができた。


 カレーなので後片付けは簡単だが、望ちゃんがさっさとやってしまった。


 職業的に汚れ物は置いておきたくないのかも。


 それにしても、ちょっと考えればわかることなんだが、作りすぎた。カレーを。


 流石に5人家族の我が家と、同じ分、作ってはいないが。


 冷蔵庫に空きがある。


 冷めたら鍋ごと入れれば日持ちはするだろうが、飽きるだろ。


「作り過ぎたなぁ、飽きるよね」


「はははっ、確かにひとりでは。そうだなぁ、責任取って食べてくれ」


「えっ、もう無理ですって」


「いや、その私は明日もその、休みで―」


「えっと、その来ていいと?」


「まぁ、そういうことを言おうとしてるのは確かだ、その嫌か?」


「別のドレス来て見せてくれるなら―」


「おま、あれだろ。明日着てたら笑うヤツだろ?」


「明日、楽しみにしてます」


「じゃあ、その―」

「テスト終わったし、うん来ます」


「そうか。そうか―休みに予定なんて、久しぶりなんだ。美容室とか、クルマの洗車とか以外で」


「オレだって休みの日は―」


「亮介は休みなにしてんだ?あっ、バイトか。バイト以外の時間は?」


 バイト先の店長に『小説書いてます』なんて会話の流れ、そうはない。そんなわけで望ちゃんには言ってない。


 どうしょ、実はあんまりリアルでは言わないんだ。


 恥ずかしいし、何より書き込みとかで身元特定されること書かれたら困る。


「笑いませんか?」


「私の黒歴史以上の暗黒か?もし、あったら笑いたい」


 心なしか笑う気満々だけど。


 望ちゃんは他の人には言わないようなこと、結構オレにしゃべってる。


 たぶん、気を許してくれてるんだ、いいか言おう。


 いや、聞いてもらおう。

 

 オレはスマホを取り出し『カキコム』のマイページを開けてスマホを望ちゃんに渡した。


「スマホがどうした?」


 頭にハテナマークを付けて首をかしげる、何かちょっとかわいい。


 オレはポリポリしながらなんて言うか言葉を探した。やっぱり恥ずかしい、こういうの。


「あの小説投稿サイトって知ってますか?」


「話は聞いたことある、なんだっけ―『ろう系』っだっけ?」


 あっ、知ってるんだ。


 正直びっくりした。何ていうか、望ちゃんくらいの年齢の知り合いってそうそういない。


 この位の年齢の人って普段何してるとか、何が好きかとか、どんなことに興味あるとかまったくわからない。


 家族にしても、陽茉ちゃんはもちろん同年代だし、いとこのクミねぇも陽茉ちゃんと同じ年。


 両親は40代。


 20代中頃の知り合いとかいない。先生とかにはいるんだろうけど、知り合いとは違う。


「これ、書いてるんです」







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