第121話 男友達。

「言いにくいなら私が言うよ」


 咲乃はレイアーボブを傾けて、オレの顔を覗き込む。相も変わらずの端正な顔立ちで。


 興味半分で聞いてみた。


「ちなみに何て言う気だ?」

「あんた、下手くそ」

「お前、人付き合い下手くそ。オレもだがな―」


「アテがあるんだろ、何人いる?」


 絵師さんのアテだ。オレにはそんなアテはない。しかもこの話は『無料提供』が前提になっている。咲乃の知名度あってのことだ。


 咲乃の作品に、イラストを使われるということは、ステータスにも、宣伝にもなる。


「候補の本命はふたりかな、声かけたら5人までいけるコンペする?」


 随分生意気だが、「死の天使エンジェル・オブ・デス」あっての考えだ。


 しかも今回の企画は注目度桁違い。その気がある絵師さんにとって競合して勝ち取る意味はある。そこに詩音も参加させる。


「残酷なこと、思いついちゃった。聞く?」


 今、思いついたんじゃないだろ、オレはそう思ったけど。残念オレも同じこと考えてた。つまり―


「投票か?」

「そう、亮ちゃん意外に残酷ね。私の好みにまりまくり」


「残酷も何も、オレたち日々『投票』されてるようなもんだろ」


 ランキングの話だ。オレにはあまり縁がないことだけど。残酷だけど、正当な評価だ。


「不戦敗選ぶかな?」


 咲乃は電車を降りながら呟く。その呟き方が予言者のようだった。


「どうかな。あっ、今日も夕方は―」


「望ちゃんでしょ?全部終わったら戻ってきなさいよ。


 プシュと音を立てて、電車の扉が閉まった。ウインクされた。やめて欲しい。


 高校男子には破壊力ありまくりだ。待受にしたいくらいだ。写真だと―『性格』写らないから。


 グラリっと少し大きめの揺れと共に電車は前に走り出す。


「佐々木と仲いいの?」


 不意に声がした。オレはその呼び掛けに振り返る。


「公人くん、久しぶり」


 ボクシング仲間の公人くんが、長身を揺らして近寄ってくる。そういや公人くんはいつも学校ギリだ。ギリギリまでランニングしてる。


「佐々木とは―」


 公人くんに合せて『咲乃』の呼び方を『佐々木』にする。変な誤解は面倒だ。


「あいつも小説書いてて、今度一緒にするんだ」


 一応公人くんはオレが、小説を書いていることは知っている。


 だけど、知っているくらいでそれ以上ではない。読む程ではない。まぁ、それが普通だけど。


「へ―っ、意外だな。京くんから佐々木のガサツさしか聞かないから。出来んの、アイツに?」


『京くん』つまりは京順けいじゅん。咲乃のいとこでオレの無二の悪友だ。


「オレより凄いよ、意外だろ?」

「意外というか、ちょっとした世界の終わりを感じた」


 公人くんは、長年ボクシングをしていて、オレともそこそこ長い付き合いだ。


 話し方が柔らかい。物腰も。咲乃やすぐにキレる京子よりも女子感あるかも。空気感が落ち着く。


「亮介くん、創立記念日さ。映画行かないか?」


 電車を降りて学校に向かう道中で、公人くんはそんなことを言う。


「創立記念日?」

「あれ、知らない?今週木曜休みだよ。ジムでさ。チケット貰ったんだよ、何でも好きなの見れるよ」


 映画か。長いこと見てないな、そうだなたまには男友達と出かけるのもいい。京順は映画とか見ないよな。


「いいよ、行こうか」






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