第153話 手札。

 確かに等価交換かも知れない。それ程京子は望と亮介の関係が気になっていた。今こうしてふたりでベットにいてふたりとも布団で隠れてはいるがパンツ姿。大胆で開放的な今でしか聞けないことがある。


 それが望との関係。いや、正確には望との関係が『どこまで進んている』のか知りたかった。相手は大人だ。普通に考えで体の関係があっても不思議ではない。


 しかし、もしかしてこの『いい意味で』ヘタレ男子。そこまで出来るだろうか? そうなると『どこまで?』になる。気になってしかたない、聞いたところで何も変わらないのだけども。


 しかし、その情報を聞き出すのも今しかないのだ。開放的な今しかない。次ここまで―質問するところまでたどり着くのにどれくらい掛かるやら。


「―します。週に2回。水曜と土曜―リョウを想像してします」うん。死んでしまいたい。京子は思った。言っておきながら『この内容の等価は婚約だろ』そう心が叫んだ。


「水曜と土曜―」亮介は京子の『ひとりエッチ』の日程を繰り返す。別に日にちを決めてる訳ではない―ただ…


「リョウが雅の家庭教師をしてる日です、ごめんなさい」今更もじもじしたところで、まさに覆水盆に返らずだ。ここでやめとけばいいものの。京子は突き進んだ。


「リョウはどうなのよ。ど、どんな感じなのよ。するんでしょ、男子は」開き直りなのか、八つ当たりなのか京子は亮介にも『ひとりエッチ』事情を語らせようとする。もう完全なワイ談だ。


「別にいいけど、等価だから京子のひとりエッチの話と。いいの、望さんとの関係の話は」


 確かにそうだった。始まりはそうなんだけど、何かどうしても聞きたくなった。京子は思う―自分は亮介と想像の中で『くんずほぐれつ』な関係なのに。そっちはどうなの、想像でも『望さんなの!』と。


「それでいい。教えて想像で誰としてるか、はっきり言って」セリフの後半は何か浮気を白状させる勢いだ。


「週に3回くらいかなぁ。数えてないけど」

「うん、で誰―相手は」完全な浮気調査だ。


「ごめん。京子だわ」

「えっ?」

「だからごめんって」

「なんで謝るの」

「ほら、自分でエッチな想像されたら女子的に嫌かなと」


「嫌じゃない。他は知らないけど―他の人には嫌だけどリョウは嫌じゃない。うれしいかも」


 言いながら(こんなことで喜んでいいのか、私!)と頭を抱えたくなる自分もいる。それでも何かひと安心な気分だ。亮介がリップサービスをするタイプではないことは知っていた。京子相手だから京子と言ってるわけではない。もし違うとしたら嘘を付くのではなく、答えを渋るだろう。そういう意味では安心なんだが―


(まずい)京子は今度こそ頭を抱えた(手札がない)そう『望』との関係を聞き出すのに差し出せるカードが手元に残ってない。等価のネタ切れだ。





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