第34話 行動派。
「ゆずちゃんなのか――?」
オレは恐る恐るたずねる。昔小学校低学年の頃、近所の絵画教室に通っていた時期があった。
その時その教室にはちんちくりんでとっても絵がうまい、というか独特な絵を描く女のコがいた。
拾い上げた絵がその女のコ『ゆずちゃん』の絵に似ていた。
ゆずちゃんは視力が悪くちょうど今柚原がしている厚いレンズのメガネをしていた。
それでもレンズの技術も上がってるだろう。こんな分厚いメガネをしている理由がわからん。
まるで聞こえてないような感じで拾い集める柚原は集まった絵をクリアケースに丁寧に入れると…
謎のダッシュ!しかも、遅い。いや、これ早歩きのレベルだわ。しかもコケた。
ムクリと立ち上がり急に振り向くと、
「
何か悪口を言って走り去った。オレの手には1枚のラフ画が残されていた。
「――で、それってやっぱり『ゆずちゃん』なのかなぁ?」
北町京子とビデオトーク中。
今日の散々な出来事のグチと『柚原』が幼馴染の『ゆずちゃん』なのかという話をしている。
もちろん佐々木咲乃とのベロチュー未遂は伏せている。
何でもかんでも正直に話したからといって、女子は許さないことをオレは知っている。
テンプレ的には京子が『関西弁』になってキレるターンなのだろうが、パスしとこう。
ターンエンドだ。
「間違いないな『
「―絵画教室はどうなったの?」
「教えてくれてた先生が『さすらいの画家』になって旅に出たんだ」
「ゆずちゃんより先生の方が気になるんだけど――」
京子は『書き手』目線でそう言った。
「―あのさ、気になったんだけど。亮ちゃんって―――」
「『
ちょっと京子が何言おうとしてるかわからない。
『柚原』は『柚原』で『ゆずちゃん』は『ゆずちゃん』同じ存在なわけないじゃないか―――
いや。同じ存在だった。
無意識に別々の存在だと思ってる。でもそれってなんか問題あるんだろうか。
『ゆずちゃん』は思い出で『柚原』は――なんだろう。
「あのね。何だかんだ理由付けて柚原さんのこと許そうとしてる様に見えるんだけど」
「どういこと?」
とぼけてるわけじゃない。考えが至ってない。
まるでわからないわけじゃないけど、核心部分がボヤケて見えてない。
ビデオトークの画面越しでもわかる京子のイライラ感。
完全には理解してない状態なんだ。イライラされてもオレも困る。
疲れもあってオレもイライラしてきた。しないといけないことが山積みなんだ。
空気悪いならそっちをしたい。
オレはため息を吐いた。そのため息は自分がびっくりするくらい感じ悪くて後悔したが、京子の表情はみるみる曇った。
ビデオトークの画面がまるで写真のようだ。何も動かず語らない。
後悔はしているけど、何の後悔かと言うと『ため息』についてで、考えが浅い。
今ここにある空気はそんな『浅い』感情でどうにかなったもんじゃない。
『掛け違い』
そんなのがどこかで生まれている。その『掛け違い』したところまで戻ってほどかないと
「今から行くよ」
オレはそう言ってビデオトークを終わらせた。ケータイとサイフ、夜冷えてもいいようにパーカーを羽織った。
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