第52話 盛られた設定。

「何から言っていいやら―」

「見た感じ?」


「そう。見た感じ、あと話し方とか。落ち着いてんのな、大人ぽいっていうか。前までほら、『そうですわ!』みたいな?」


「色々設定盛ってたからね」


 詩音は車窓から外に僅かに広がる海を眺めた。


 髪型はふんわりとしたゴージャス系からふたつに分けられたみつ編みお下げに。


 メガネは昨日のような瓶底ではないがかけていた。スカートの下にジャージを履き、セーラー服の上からグレーのダボッとしたパーカーを羽織っていた。


 袖は長くちょっとたげ指先が見える程度。この指先感はいい。


 今度オレの白のワイシャツでやってくんないかなぁ。泊まったとき。あっ、泊まったことないけどね。


 背中にはリュックが背負われていた。しかもサメの頭部をデフォルメしたものでチャックを開けると口を開けた感じになる。


 正直口調は前より落ち着いた感じだが、見た目はチグハグ感を増した。なんでスカートの下にジャージ。しかも見えるように。


「ジャージ履いてないとなんか調子出ないのよ」


「何の調子よ?」

「部屋でずっとジャージだし―」


 電車は学校の最寄り駅に近づきつつある。詩音は微妙にオレの質問の答えをスルーした。


 スルーと言うか、何なんだろ。顔を見ると目をそらす。


「何か隠してない?」


「うぅ…さすが元カレ」

「元カレだったんだオレ」


「だって亮さま、じゃないや亮くん振ったし―おこがましじゃない『さすがカレシ』なんて」


 ガタンゴトンと電車はリズムに乗って走る。あれかなぁ、鉄道路線によってはこの音も違うのかなぁ。他の路線乗る機会ないからなぁ。


「奥ゆかしいな。じゃあ『シェア』って話はなしなんだ」


「―あっ、アレは。それで、その…京子とは話ついたけど、ルールとか」


「ルール?」


「あっ…朝の電車で聞くの?恥ずかしいのよ―その抜け駆けなし、その進捗は『合わせる』って」


「進捗?」


「それ、夜にトークして。言えないのよ、朝から――あっ、でも京子いないし、ちょうど良くはあるなぁ。ん―あのね――」


 詩音はオレの制服の肩のあたりを引っ張る。不意に引っ張られたので簡単に『くいっ』と引き寄せられた。


 そしてオレの耳元で、

「―京子がしたところまでは、いいって―だから『キス』までは目をつぶるって―」


「ど、どんな会話してんだよ、女子は」


 顔を見ると髪型が『お下げ』になったので『すっと』したきれいな首もとまで見えた。


 その首もとが耳まで真っ赤だ。


「まぁ、そんな会話をしたものの、ほらお子様な3人なんで。何より『振った』負い目があるのよ。私には」


「このまま、どっか行く?」


 ふとそんなことを口走ってしまった。目的も狙いもなく、ただ何となく詩音と雑音のない世界に包まれたい。そんな気分だった。


 例えば海沿いのコンビニとか。


「うれしいけど、ほら?今日は――ねぇ?」


「まぁ、それもそうだナ」


『中間テストだ…結局なんもしてないよ、テスト勉強』









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