第66話 刺さる言葉。

「ごめんなさい」

「いいよ」


 陽茉ちゃんはいつもいつもふたつ返事で許してくれた。


 今日だってそうだ、きっと納得なんてしてないんだ。


 それでも幼稚園の頃からこうだった。『ゴメンネ』『いいよ』決まり事だった。


 納得いってなくても子供はすぐに受け入れる。でも―


 オレは詩音がいるけど構わずに陽茉ちゃんに語りかける。とても大切な家族なんだ。


 まず、わかってほしいのが。内緒にしたかったわけでも、頼りにしなかったわけでもないと伝えた。


 じゃあなんで。


 陽茉ちゃんは呟く。詩音との突然の別れ、ファミレスで起きたこと、佐々木の罠。


 じゃあなんで。


 陽茉ちゃんは同じ質問を繰り返す。


 いつもならとっくに陽茉ちゃんに泣きついていたところなのに、なんでだろ?


「―京子がいたからでしょ」


 詩音がしゃくりながら口を挟む。


 そうだ、京子だ。京子がいてくれたからだ。深刻な出来事を深刻に受け取らずに済んだのは。


 だから陽茉ちゃんに泣きつかずにいれたんだ。


「京子って、だれ?」


 オレはずっと京子とビデオトークばかりして痛みを感じることがなかったんだ。そうなんだ。


 京子は同じ道を目指す友でありカノジョなんだ。京子がいたから深く考えずに済んだんだ。


 京子が知らず知らずに救ってくれてたんだ。


「カノジョです、亮くんの」


 詩音が言う。京子のことを。太ももに深く爪を立てて、自分の感情を押し殺してそう言った。


「あなたは、違うの?」


「―わたしは違います、だって―ワタシは」


「ウソつき―ね」


 陽茉ちゃんは詩音の頭を抱え込むように抱き入れぎゅっと力を込めた。


 力を込めながら『ウソはダメ』そう言ってふわりとした詩音の髪を優しく撫でおろした。


 髪を撫でながら詩音の耳元で呟く『教えて、何があったの』と。


 詩音はお絵描き教室からオレのことを知ってること。


 携帯小説をしていることを知って絵の勉強を頑張ったこと。


 いつか一緒にできる日を夢見て。


 サイト内でオレの小説がパクられていること、パクった相手の話の中の描写や実在する地名で相手を特定したこと。


 その相手のバイト先に乗り込んだこと。


 その相手から誰の目にもわかる状態でオレと別れたらオレの妨害やパクリを止めると言われ信じ、嘘だったこと。


 自分の取り巻きがバイト先でオレにしたこと。


 それでも一緒にいれるのは全部今のカノジョ京子のおかげだと。


「あなた、それでいいの?」

「私振ったから―」


 詩音はそう答えたが、その陽茉ちゃんの質問はオレに対してだった。


 これだけ思ってる娘をどうするの?それでいいの?


 陽茉ちゃんの無言の問い掛けが矢継ぎ早でオレに刺さった。






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