第106話 布石を打つ。

「私ってどちらかと言えば『ツンデレ』でしょ」


 徒歩で駅から帰る道中、咲乃が聞き捨てならないことを口走った。


「ほぼサイコパスだ、ぎりでヤンデレと話がついたはず。なぜ蒸し返す」


「だって、ヤンデレって『眼帯』してるでしょ?私してない」


 いや、ヤンデレかどうかは『眼帯』の有無ではない。確かに眼帯してたら確定付くけど。


 そもそと日常会話に『監禁』を口走るハードなツンデレはいない。


 だがしかし、ツンデレの概念をひっくり返す逸材かも知れない。ここは咲乃の話を聞こう。


「じゃあ、なんかツンデレぽいこと言ってみて」


「何その簡単なお題―それじゃあね」


『君のこと好きだからって、わけじゃないんだからね、勘違いしないでよね!』


 勘違いはおまえだ。


 なんだよ、何でそんなに『監禁』願望強いんだよ、そもそも監禁しておいてから、どのつら下げてデレてんだよ。


「―どう?」


 どうって、感想いるやつですか?


 いらないですよね、あれだよね、ウケ狙ってるよね。なに、その納得いってない感じ。


 オレになに望んでんの?


「―あれよね、亮ちゃんにはちょっとハードル高かったかな?わかんないかな、この絶妙なツンデレ感。仕方ないじゃあツンデレ初級ね―」


 あの、オレの理解力が低い感じで話進められても。


『あんたなんかに照れるわけないでしょ!?てへっ!』


 いろいろと、テーストがおかしい。


 味覚麻痺してんじゃねーか?何で照れ隠しから『殺害』されんの?おかいよ。


 なに?最後の『てへっ!』元気過ぎてかえって怖いわ。


 かなりのドヤ顔。まぁ、本人やるだけやって満足してんだから、後はそっとしとくか。


 こんな方向希望してはないけど、気分は晴れた。


 ふと気になって『監禁場所』についてたずねてしまった。


 それからオレの家につくまで咲乃はありと、あらゆる『監禁』のバリエーションを披露。


『激萌でしょ?』とか『激アツざしょ?』など同意を求めてくるも、意味不。


 監禁のどこに萌えろと?


 まぁ、いいや。どれも想像の世界なんだから。


 家に近付くちょっと手前で咲乃は速度を落とす。


「今日望ちゃんとデートなんでしょ?」


 うっ、なぜそれ知ってる。トップシークレットなんだけど。


「望ちゃんからメッセージあったの。『何着て行けばいい?』って。別に最終私のとこに戻ってくるから別にいいちゅ―たらいいんだけどさぁ、いい加減にしろよ、コラッ」


 何か怒られた。これ望ちゃんの完全に誤解デートなんだが。楽しみだけど。


 それにしても、望ちゃんは一体この年下女子になに相談してんだ。着るもんなんてなんだって―待てよ。


「おまえ、何て答えた」


「普通に。『ドレスかな?』って」


 やっぱり、普通にハメていた。そこはかとなく嫌な予感がするんだが、まさかないよな。


 舞踏会じゃないんだ。卒業式後のプロムじゃないんだ。フランス革命前じゃないんだ。日本だし。


「いや、実のところを私の目下もっかのライバルは地味女子でも探偵ちゃんでもなくて、店長かもと思ってんだよね―そのために布石ふせき




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