大人女子ですが、何か?

第107話 そら見るよね。

 この世界には『お約束』というものがあって『あっ、それはないよね』なんてことを平気でひっくり返してくる『超常現象』―


 それが、今だったりする。


「へ、変か?やっぱりピンクにしとけばよかったかな!?」


 取り乱した大人女子。そもそも論点が違う。問題は色ではない。


 ドレスでクルマ運転して現れたことだ。


 しかも、サラッとしたスレンダーラインではなく、プリンセスライン。まんま、お姫様が現れた。


 結婚式から逃げてきましたか?そう問いたくなるほどの『ウエディング』感。


 しかも、純白でなんだろ、頭にも何か乗ってるけど。


 そもそも、私服でドレス持ってるとか。そして会話的に今着てる以外にも『ピンクのドレス』があるとのこと。


 つまり最低2着以上ドレスを持ってるのか。


 普通にそうなのか?コンマ2秒考えたが、そんなわけない。フランス王室でもあるまい。


 綾野望。オレがバイトしてるファミレス・ナッシュビルの店長。


 昨日ひょんなことから、京子の妹雅と晩飯をナッシュビルで食べた。


 その帰り駐車場でばったり望ちゃんに会い『出待ち』と勘違いされ、今日夕食デートとなったわけだが―


 望ちゃんの二人乗りのスポーツタイプの軽四の室内は思ってたより狭く、狭いから近い。


 近いから露出の多いドレスの胸元が間近だ。高校男子。


 残念だが女子の『この辺り』の肌見たことないです。


 別に全然『ポロリ』とかじゃない。しかし残念な青春送ってるオレにはこんな、こんな近くから見たのは初めてだ。


「どうかな?」


 感想求められても、正直けっこう必死で呼吸を押し殺してます。緊張してます。望ちゃん、ポンコツなんだから。などと笑い飛ばす余裕はない。


「変かな?」


 いや、そんな上目使いでモジモジされたら―


「いや、そのあれです。キレイですよ、ホント。びっくりして言葉が」


「あっ、そうか。佐々木に思い切って相談してよかった」


 あっ、その感謝いらないです。はめられただけなんで。それにしても『ドレス』って持ってるもんなの?ないよなぁ普通。


「望ちゃん、ドレスってけっこう持ってるものなんですか」


 オレは緊張感を何とかしたくて、とりあえず何か喋ることにした。話題はドレスしかないだろ。


「あっ、親のカラミでな。付き合いというか。必要に迫られて」


「親のカラミ?望ちゃんのご両親って政治家かなんか?」


「あっ、と。知らないか。知らないわな、言ってないよな。そういや誰にも言ってないから言うなよ?」


「はぁ」


「父親はナッシュビルの経営者なんだよ」


 ちょっとハニカミながら告白した。ん?ファミレス・ナッシュビルの経営者?国内500店舗の巨大ファミレスの―娘さん?


 ちょ―セレブじゃん。


 そう思いながら、ダメなオレは望ちゃんの胸元をチラ見してしまう。


 仕方ないだろ、高校男子なんだから。


 いや、オレだからだ。ちょっとまて、それじゃ見ないやつ、いるならちょっとこ!そう言いたい。言っておきながら虚しい。


何言ってんだか。










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