第62話 私、振ったから―
ここはバイトのファミレス・ナッシュビルのロッカー。オレは着替えながら佐々木咲乃の口から『
このふたりは佐々木の本性を知らない、あの『
陽茉ちゃんには過去不登校の経験がある。あるだけにオレは陽茉ちゃんに対してすごく過保護なんだ。弟が姉に過保護なんて変かも知れないが。
それでも『陽茉ちゃんには手を出すな』的な発言はしない。わざわざ自分の『してほしくない』情報を与えたら弱みを握らせるだけだ。それは大人女子、望ちゃんにも言えること。
ここで変によそよそしくしたら『警戒して距離を取った』ことを佐々木咲乃は察するはずだ。
じゃあ、どうするよ?自然体で行くに限る。
「望ちゃん、おはようございます。愛してます」
「知ってる。2年後就職なんだろ?そこからそうだな4、5年は共働きするよ。流石に生活が安定しないとな。それまで頑張って貯金しないとな。大丈夫だ私は浪費家じゃないし、ここはそこそこの稼ぎになる、まぁそんなわけで今日も頑張ろうか」
サラリとオレを含めた将来設計を語られたが、どこまで本気やら。本気は本気で怖いがこれが妄想なら更に怖い。あれ、オレ就職してすぐ結婚するのか?
『バイトしたら給料より先に嫁を貰ったんだが』
そんなタイトルのラブコメが書けそうな気がしてきた。ん?何だろおもしろそうだなぁ、プロットだけでも書いてみるか。あれ?オレの話ってヒロイン全員年上じゃないか?
そんなことを考えながらバイトしたらあっという間に時間が過ぎた。わからないことはまだまだあるが、佐々木に聞くまでもなく自然に望ちゃんと他のパートさんが教えてくれた。
これは望ちゃんの指示だな。直感的に思った。今日のことがではなく前回のはじめてのバイトの時、オレと佐々木は付き合ってることになっていた。
オレの面倒は佐々木がする感じになっていて、佐々木が忙しいときは放置だったんだ。訳のわからないままに無駄な動きをしていたからしんどかったのだ。
この間、望ちゃんからバイト継続可能かの電話があった時に佐々木がちょっかい出されて困ってるので頼まれてはじてたバイトで、佐々木とは付き合ってないと。
そんなことを言ったので佐々木に対しての変な遠慮がなくなりイチバイトとして扱ってくれているので放置はなくなり、おかげでいろんな人が色々教えてくれた。
働くのって楽しい側面もあるんだ。いろんな年代の人と接するのはこんなに新鮮なんだな。
オレは佐々木への意地で続けようとしていたバイト。ほんの少しのことで自分のために続けたいと思い始めた。
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