第115話 書きたいからだ。

「そんなわけで今日は送る、大人としての責任。9時までには自宅だ」


 いきなり望ちゃんはカーディガンを肩に羽織り、クルマのカギを持つ。


 それでもこれは大事なことだ。この関係を、大切に思うなら今はそうすべきだ。


「フラグって知ってます」


 オレは運転中の望ちゃんに話しかける。信号待ちだ。


 望ちゃんの顔は薄っすらと、メーターのランプに照らされて浮かび上がる。


「言葉は知ってる。これがフラグなんだとかわからん、教えてほしい」


「―よくあるのが『死亡フラグ』。例えば戦場で『オレこの戦争終わったら結婚するんだ』とか。―たいてい死にます」


「そういう映画見たことある、それで?」


「いや、さっきオレ絶対に明日来ますって言ったでしょ?」


「うん、やっぱムリな感じか?」


 望ちゃんは、がっかりと肩を落とす。


「―じゃなくて、そのパターンってオレが例えば補習とかで、連絡取れなくて望ちゃんが、心配して事故に―だから絶対に来るんで部屋にいてくださいって話です」


「長くてすみません」


「あの、経験ないんで、そのかっこ悪いんだけど、その可能性あるかのヒントとか―」


「あの、可能性とか言わないでくださいね、ありますよ」


「―だけど、きちんとしたいんで、ちょっと時間ください。あと―」


「あと?」


「―考えたら、オレあんまし『ちゃん付け』で呼ぶの得意じゃない。望さんに変えていいですか」


「そのよそよそしく、とかじゃなくて、なんか姉をその陽茉ちゃんって呼んでるんで、望さんは姉じゃないんで」


「うん、別にいいよ」


 オレはここ数日、色んなことが引っかかっていた。


 気持ちというか、心というか。


 詩音が言ってたように、オレは誰かの『保護者』でも『指導者』でもない。


 オレは京子と詩音との関係を、付き合い方をもっと、考えないといけない。


 もっと考えないといけないってことに、気がついてしまった。


 今のままでいいと思ってたけど。なんか、やっぱり違う。それが何なのかまた、ちょっとはっきりしない。


 だけど、今のままは良くない。自分にも、ふたりにも。


 1度白紙に戻そう。小説と恋愛と友情は別にしないと、全部中途半端になってしまう。


 オレにある時間は無限じゃない。卒業後は就職するんだ。


 それはオレ自身が決めた、決定事項なんだ。


 だけど、就職したからって、小説は辞めないけど、どれくらい時間が取れるか、想像も出来ない。


 今しか感じれないこととか、もしかしたら、あるかも知れない。


 だったら『それ』を感じて言葉に、文字にして、話にしてみたい。


 あとになったら『いつだって』出来ると思うかも。だけど。今はわからないから、やれるだけやりたい。


 このままじゃ、いが残る。




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