第157話 ラブコメ的展開。

 京子は亮介の話に時折頷いた。自分がした質問に、丁寧に答えてくれようとする亮介の人柄に改めて好きになったことを実感した。だからこそ自分の質問したことに答える亮介のトーンの低い声に申し訳なく感じた。


「こんな感じかな」亮介はひと通り話したと思うところで区切りとしてそう言った。その口調、仕草が京子の胸をザワザワさせる(落ち込んでるんだ)望がまだ亮介の中にいる、そんなことを1人勝手に理解仕掛けて、やめた。


「落ち込んでるの?」思ったことは口にする、そうしないとまた疎遠な日々に逆戻りかも。京子は曖昧な納得はしない。

「落ち込んでないけど、オレ意外に心狭いんだなぁって実感したところ」亮介は自分の決断に少しの自己嫌悪を感じていた。決断が間違っているとは思わなくても、感じる重苦しいはある。


「リョウは別に心狭くないよ、退けない部分なんて誰だってあるって」京子は言いながらも(なんて月並みな言葉なんだろ)自分の言葉の薄っぺらさに顔を覆いたくなる。軽いため息と共に「そう言ってくれるのお前だけだよ」そんな亮介の言葉が妙に心にみる。


「ごめん。私の質問が落ち込ませたよね」亮介の頭に手を伸ばし自分の手の内に導く。

「誰かに聞いてほしかった、それが京子ならいいのにって考えてたから―」しんみりした空気を京子は変えたかったので思いっきり元気な声を出す。


「ほら、リョウはさ。真面目過ぎ! これだけリョウのこと好きだって、女子が目の前でノーブラにパンツだよ? 勢いでガ―ッと押し倒して『お前、オレのこと好きなんだろ? いいだろ、ちょっとだけ』的にさ、ね?」京子は思いっきり上げたつもりのテンションだったが、すぐにしぼんだ。


「あははっ、何かごめんね。空気読めない感じで」苦笑いでごまかすも、ごまかせない。

「ホントだよ、先に言われたらやりずらいわ」亮介は呆れる。

「ん? どういう意味」

「だから、今からしょうと思ってたの―その押し倒す的な」


「あははっ、ですよね、そらやりずらいですわね。その今のなし! これじゃダメ?」照れる京子を見て亮介は京子の骨折を気遣いながらゆっくりと京子を横にする。


「あれ? これ、ラブコメ的にはバターンでは?」京子は焦る。実際のところ亮介との関係を発展させることはまったく嫌じゃない。むしろ望との関係がはっきりした今がふたりの仲をより親密にする時期だと思っている。

(でもな、家族勢揃いだよ)そういくら朝まで起きてこない属性がある北町家とはいえ、絶対ではない。トイレに行くこともあるだろう。その時物音がして部屋に来ないとも限らない。

(せめて両親が買い物、雅が部活に行ってる土日の昼間なら―)まったく問題がないのだが―

(ダメだ―こんな時に限って亮ちゃん目がマジだよ)

 ラブコメ的展開が期待出来ない京子は焦りで生ツバを飲んだ。

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