第138話 気づき。

 京子を自販機に誘ったものの――特に進展はなかった。


 いや、まだ亮介はあえて進展させないようにしている。


 彼は彼なりに懲りていた。同じループから抜け出したい。


 以前のループを無限に繰り返すなら――


 まったく別の人と付き合うことも考えている。その事は何となく京子に伝わっていて―


 そこからの危機感に繋がっているのだったが。


 進展はないものの――興味が湧いたので話題を亮介は振る―さっきの後藤くんの話だ。


「告られたな―」


「そうだね」


「素っ気ないな」


「別に付き合うとか―ないよ」


 そんな事より後藤があのタイミングでふたりの邪魔をしてきたことに京子は苛立っていたが――


(それでも―あれがなかったら今食堂に来てない。チャラにしょう――いない人に腹を立てるのも無駄だし)


 京子はそんな感じで割り切った。


『いちごオーレ』を誘われたはずなのに渡されたのは『バナナオーレ』だ。


 別に『いちごオーレ』オシではないが釈然としない。


「嫌いか、『バナナオーレ』?」


「別にだけど――何でかなと」


「オレも渡しながら思った―特に『いちごオーレ』に意味ないし」


「助けてくれたんだね――さっき」


 京子は気付いていた―1年前。こういう些細な『気付き』が出来てなかった自分に――


 気付いていたとしても、言葉にも行動にも出してなかった―


 今それをしてみた。


 亮介の反応は―普通だ。特にリアクションはない。それでも―


 積み重ねないと―京子は思う。


「―これからは『キョウ』で呼ぶことになったの?私のこと」


「ん、あっ。あの場のノリ―嫌か?」


「嫌じゃないよ―なんか、うん。新鮮かな」


「じゃあ、キョウで呼ぶ」


「うん」


 そんな会話をしながら―そういや5時間目は体育だった――


 早めに着替えを取りに戻らないと――


 女子の着替えで教室に入れなくなる。亮介は少し慌てると――


「体操服取ったげるから―」


 京子はもう少しこの時間のままいたかったらしい。


 これくらいの自己主張しても――怒らないだろう。


 元々怒りっぽい人じゃないし。


 京子の亮介評はこんな感じだ。


 そしてここもまた反省点なのだ――怒りっぽくない人を自分は怒らせた…


 呆れさせたが正しいか、何にしても『付き合ってらんない』と思わせたのも事実――


 とは思うが――今は亮介の前で精一杯『伸び』をして――今を満喫しよう――


 京子はこれ以上の欲はなかった。


 中庭のベンチに座るふたりを2階の廊下から見ている後藤に、亮介も京子も気づいてはなかった。


 このままあっさりとは終わりにしてくれそうにない――そんな空気をまといながら。





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