第58話 ダーリン・ダーリン。
「ちゃわっす!」
何事もなかったかのように例の挨拶を繰り出す。漂う白けた空気。
なんだろ何もなかったことにしたいのだろうか。まさかそれはないか。
それはないよな。ないよな?
「あれ?どうしたの、こっちから折れてわざわざ来てるのに挨拶ないとか、よくないよ?そういうの」
腰に手を当てて『もう』のポーズは幼なじみのテンプレ演出のつもりだろうか。
明らかに『すべってる』このメンバーに受けを狙うこと自体無理だ。
オレも詩音も口を開く気がない。京子は面識ない。それを乗り越えてまで話することがあるとすれば『文句』以外ないのだが、関わりたくない気持が強い。
自然消去法的には京順しかいない。京順は京子に肩を小突かれて前に出る。勿論渋々だ。
「咲乃、そのなんの―」
「薬師寺には用はない」
『
「でもよぉ、おまえがここに来ても
京順は至って正常な言葉を吐く。誤解があるかもただが京順は至って常識人だ。
今だって京子に小突かれたと言え場を静めようとしている。そうなのだが明らかに佐々木は
顕にするものの、このメンバーで京順以外に佐々木と関わりを持ちたいと思う物はいない。
何よりそんなにイライラするのになんで来たんだ、普通そう思うだろ。
オレは多分京順の次くらいに口を開かないとイケないかもなんだが、火中の栗に手を伸ばす意味が見当たらない。
何より佐々木が自分で来たのだ、佐々木が要件を口にするだろうし、それがないならオレたちは帰る。
それが筋なのだがそんなこと待っていたらオレたちは餓死しかねない。要件を済ましてさっさと退散しょう。
「―何のようだ?」
「会いに来たの、待っててもログインしないから。何してたのよ」
「テスト中だ。お前との揉め事よりテストだ」
「揉め事?ヤダな、ちょっと見解の相違があっただけじゃない、亮ちゃん大げさ」
「ウチの人に亮ちゃん言うな」
詩音が低い声で睨みを効かせながら言う、オレの左腕にしかみつきながら。
「ウチの人ってなに?別れたって言ったよね私に。嘘だったの」
「言った。言ったけどアンタ亮くんに嫌がらせ止めなかったじゃん、ヨリ戻すのアンタの許可いらない」
「ちょっと何言ってるかわからないわ。亮ちゃんホントなの?」
「オレが詩音とヨリ戻そうが京子と付き合おうが佐々木には関係ない」
佐々木は一瞬たじろぐ。しかし、すぐに不敵な表情を浮べる。
「あれ、亮ちゃんあのこと言ってもいいの?困らないの。私は別にだけど―」
『あのこと』とは明らかに『あのこと』だ。
オレが佐々木とバーガーショップでベロチューしそうになった時のことだ。佐々木は切り札をちらつかせる。
「知ってるよ、あなたとダーリンがベロチュー仕掛けたの聞いてる。トイレに逃げられたんでしょ?ダサっ」
オレは慌てて声の主、京子を見る『ダーリン』ってなに!?
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