第7話 普通(ヴァニラ)の女子。

 授業中も空き時間が出来たら小説の『あらすじ』を考えている。


 プロットを書きたいのだが流石にそこまで出来ない。


 ただ出たアイデアを忘れないように大きめの付箋ふせんに書いてノートに貼っている。


『プロット』っていうのは小説を書くときの『設計図』書きすすめるにつれて、最初と『ズレ』などが生じてないか確かめる生命線。

 

 人によってやり方は色々だ。パソコンでしっかり入力したりスマホ管理したり。


 オレはノートと付箋だ。


『私のPV上げるのどうしたらいいかなぁ』


 北町の言葉が頭をよぎる。北町は教室の入口付近の席でオレは北町からいくつか斜め左後ろ。


 教室の真ん中くらい。


 今まで目で追ったことのない女子。地味で目立たない。


 普通ヴァニラな女子。はじめて出来た小説仲間。


 その仲間からの相談。


『PV上げるのどうしたらいいかな』


 すべてが小説を中心に回しているオレだから、その呟きは誰よりわかってしまう。


 同時に思う。人の面倒みれるほどオレ出来てんの?PV平均800だろ。


 低くはない。苦労なくして出した数字じゃない。


 でも、オレが目指しているところには全然手が届かない。


 こんなところで『モタ』ついていてなんて。


 つかめない。


 それでもはじめて出来た仲間なんだ、北町は。同じ道を目指して偶然出会った大事な友なんだ。


 一緒になんとかしたい。


 オレは机の下にスマホを隠しながら北町の『書くことへの』思い、乾き、北町の作品に対する熱量、それがとてつもない大切で大事にしてほしくて、大事にしたくて。


 そんな気持ちで書いた、北町の作品への『評価』


 そして星3


 同情じゃない、この先への期待値も含んでいる。


 この地味系女子の熱量のこもった『きちきち』の文章にオレは評価した。


「冬坂くん―」


 授業中は終わった。チャイムが鳴って昼休みを運んできていて、


 オレの机の前には北町がいるわけで。


 オレの制服の腕を指先で少しだけ掴んだ北町の顔はくしゃくしゃに歪んでいて。


 それがとてつもなく、可愛かった。


「北町さん…どうしたの?」


 北町の異変に気付き声をかけるクラスの女子。


 北町は溢れ落ちる涙を見向きもせずにオレに笑いかけて


「こんなに、うれしいんだね。知らなかったよ、ありがと」


 昼下がりの教室はひどくざわついた。


 だけど、オレと北町の心には少しのざわつきもなかった。


 北町ははじめて涙を拭い


「はずかしいよ、どっか連れ出して―」


 小声でささやく。


 オレは秒で北町の手首を掴み、北町はオレの手を握り返し、


 クラスメイトの波を乗り越え廊下に向かう。


「なぁ、北町ってあんな可愛かったか?」


 誰かの呟きに


」京順のキザったい答え。


『にっ』と口元だけで笑う京順の横顔が目に浮かぶ。


 オレははじめて北町をした、階段を登り。


 詩音に振られた屋上へと向かう階段を北町の手を引いて通り過ぎ、


 青空の待つ屋上の扉を開いた。


 錆びた鉄製の柵に手を置くと土の匂いを含んだ風。


 忘れていた感覚、感情、そして感動。


 はじめてついた評価。誰の目にも触れられない日々。無意味に見えた努力。


 それが全部洗い流されて、救われた感覚。オレが忘れていた感動を、感情を、思いを。


 北町は思い出させてくれた人。


 仲間、大切な仲間。


 北町は華奢な腕を後ろからオレの腰に回す。


 これからもオレは数字を追いかけるけど、


「私こういうの書きたい―」


「書こう、一緒に」


 北町はオレの顔に手を添えて顔を寄せそっとくちびるを重ねた。


 遠くで飛行機のジェット音が響いた。


 ふたり時間が今開始された。
















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