第109話 お買い物デート。

「そもそも私は――」


 緊張感からか、持ち前のポンコツからか望ちゃんは『ぷんスカ』と怒りながら、打ち明け話を始めた。


 特に『何に』怒ってるわけではなく、恥ずかしさを隠すためだ。


「小学校、中学校、高校、そして大学すべて、そう、すべてなんだよ、しかも寮だよ、教師や教授に男性はいたが誰も60歳を大幅に越えていて―じゃあ、せめてへのお誘いがあってもよくないか?それすら恵まれず、そのアレだ―その全人類にモテることなく、私は生きてきたわけで―」


「つまり、ずっと女子校だったからつい『ドレス』着ちゃったと?」


「はい。言えば言うほど恥をさらすと知りつつも、何というか、許しやって欲しい一心いっしんで更に恥をかいている。ちなみに彼氏いない歴イコール年齢だ」


 オレの浅い人生で、何と言えばいいかわからないけど。


 別に許しを乞わないといけないことなんてされてない。


「あの、取り合えず色々と水に流して、忘れましょう―ねぇ、その折角のアレじゃないですか、お互い初デート、でしょ?」


「は、初デート!?どうしょ、私はその初デートで自分の部屋までお前を連れ込んだ、所謂いわゆる―」


「望ちゃん、一旦待とう。冷静に、望ちゃんが緊張したらオレも緊張するし。そうだ、お腹空きませんか、夕食どうします?何か予定とか―」


「あっ、すまん。ド、ドレス選びでテンパって何も考えてなかった―ナッシュビルにでも」


「いや、それは望ちゃんの世間体―というかお父さん的にマズイでしょ、折角せっかく部屋に上げて貰ったんで何か作ります」


「えっ、お前料理出来るの」


「出来るというほど出来ないけど、好きですよ。望ちゃん料理しないでしょ?」


「あ―うん。道具は一通り引っ越した時からある、あるにはある。あっ、でも材料ないぞ」


「じゃあ、買い物行こう。楽しいですよ、買い物」


「あっ、行く」


 望ちゃんのマンションはオレの家からそんなに遠くない。チャリンコで来れる範囲だ。なので土地勘はあった。


 歩いて行ける所にスーパーがある。歩いて行って気分を変えよう。


 夕方6時に差し掛かろうとしていた。外は薄っすらと暗くなりつつあった。街の雑踏が心地よく響く。


「その相談なんだが」


「なんですか、望ちゃん?」


「それなんだ、その呼び方なんだが―」


「あっ、すみません。れしいですよね、綾野あやのさんにします」


「いや、違うんだ。私のはそのままがいいんだが、その―」


「あ―オレですか、何でもいいですよ。冬坂とうさかでも亮介でも。呼びやすい方で―あっ、じゃないか、決めた方が呼びやすいですよね、オレは望ちゃんなんで、じゃあ亮介で。もちろん、店で呼びにくい時は名字で」


「あっ、その気を使わせてすまん、その恥ずかしいからさ『おまえ』って呼んでたけど―しかし、亮介ってちょっと私にはハードル高いぞ、さすがに」


「じゃあ、アレですか『亮介くん』とか?」


「それ、親戚のおばちゃんぽさ出てない?お年玉あげる時ぽくないか?」


「あーっ、ポイでね。じゃあやっぱり呼び捨ては?」


「いや、それはなんか弟ぽくないか―そもそも」


 そんなことを、あ―でもない、こ―でもないしている内スーパーに着いた。


 今日はカレーにしょう。辛めの。




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